暁 〜小説投稿サイト〜
ノヴァの箱舟―The Ark of Nova―
#8『膝下の街』
[1/5]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
 《箱舟》システムによって空に上がった人類。《教会》による強制統治により、かつてよりは遥かに協調性がました。だがしかし、その世界から犯罪が消えたわけではなかった。いまだに窃盗や殺人などの犯罪は起こるし、それに対する刑罰も用意されている。

 そして、文字通り『世界の都』である、世界にたった一つしかない最高クラス、Sランクの《箱舟》、《王都》であるとしても、それは例外ではない。他の《箱舟》に比べれば随分犯罪の数は少ないだろう。だがしかし、ゼロではないのである。

 その《王都》でおこる犯罪を駆逐するのが――――《十字騎士団(クロスラウンズ)》の第二師団、通称《王都新撰組》である。



 ***



「はぁ……何とか言ったらどうなんだい?」

 できる限りやさしげに言ったように自分では思ったのだが、効果は無かったのだろうか。目の前に座る男は、涙目になるだけである。弁明の一つや二つ聞いてやる、と言っているのに、これが全く、さっぱり口を開かない。

 《教会》守護組織《十字騎士団(クロスラウンズ)》第三師団団長、《三月兎》アービル・ソークレットは、進まない取り調べに、再びため息をついた。青い髪の毛は丸くカールしており、その特徴的な髪型から『トマト』のあだ名をもつ彼は、現在第二師団が捕らえた犯罪者の審問に付き合っているところであった。

 今目の前にいる男は、窃盗罪で逮捕された男だ。それも盗んだのがそこそこ高級な美術品だという事だった。現場にこれと言った証拠は無く、この男がいたことで現行犯として逮捕されたのだが、容疑を否認しようとすらしない。そもそも何もしゃべらないのだ。
 
 年齢は三十歳ほどか。恐らく口を割らない理由は一つ、ここ、《十字騎士団》第二師団の駐屯地に設けられた審問所に連れてこられたことに対する恐怖だろう。まぁ、なんとなくわからなくもない。世間から見れば、第二師団こと《王都新撰組》と言えば鬼の警察部隊の様なものとして見られている。

 が……。

「(こいつが団長なんじゃなぁ……)」

 トマトが先ほどからため息を絶やせない理由は、隣に座る一人の男の存在であった。

 流れるような金髪を、肩のあたりでまとめて前にたらしている。頭にはネコ耳の様な形のカチューシャ。性格にはあれは蝙蝠耳であり、魔力を増幅させるデバイスなのだが。呑気に目を細めて、紅茶なんか飲んでいるこの男の名前はハルトレッド・ド・フィー。《教会》から支給される《称号》は《蝙蝠》。彼はゆるゆると紅茶の入ったティーカップを置くと、机の上に置かれた袋の中に手を入れる。

 取り出したのは楕円形のお菓子だ。表面に砂糖パウダーのついたこのお菓子は、名を『ハッピーターン』という。《ラグ・ナレク》以前から出回っていたお菓子だといい、ハルトレ
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ