暁 〜小説投稿サイト〜
乱世の確率事象改変
日輪に月を詠む
[1/7]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
 練兵場、兵や将が鍛錬に勤しむその場から、上座に位置している指示を飛ばす為の物見台。椅子に腰を下ろして、気品溢れる仕草でお茶を飲んでいるのは……平原の頂点に座する覇王。
 その手折れそうな腕を、すっと一瞥すら向けられずに無言で差し出された。
 優しく握っている湯飲みを見て、隣に侍る侍女は深緑色の髪を揺らし、不足気に唇を尖らせながら小さく鼻を鳴らすも、小言を零すことなくお茶を暖かくする為に注ぎ足す。
 彼女達の目の前で繰り広げられているのは、遠巻きで兵達が見やる中、三人の観戦者が並ぶ目前での男と女の試合。
 心配そうにそわそわと偶に身体を揺らして、汗拭き用の手ぬぐいを人数分用意しながら待つ月。
 試合というには些か行き過ぎているソレを見て、今にも参加したい身体をどうにか抑え付けながら、獰猛な笑み……では無く、意地の悪い笑みを浮かべている霞。
 額に片手を添え、二人の様子に頭を悩ませながらも、口元には僅かな笑みを携えている秋蘭。
 彼女達の前で戦っているのは……大剣と長剣。
 潰した武器であるといっても、二人が戦えば大けがをする可能性さえ出てくる。だというのに、大剣を叩きつける夏候惇――――春蘭と、長剣を振り下ろす秋斗は、傷つき、傷つける事にまるで躊躇いなど無いかのようにぶつかり合っていた。
 春蘭の“試合としての”本気は……見る者によって殺し合い寸前、否、まさに殺し合いに見えるだろう。直接戦っている秋斗、見慣れている他の者と違って、月だけにはそういう風に見えていた。
 ただ、そんな月とは違い、他の者達が多様な反応をしているのには理由があった。

「いい加減に負けを認めて……っ! 華琳様に跪くと言え!」
「おっと! なんで素直にお前さんの言う事聞かなきゃならんのだ……っ! このバカが!」
「バッ……くっ! バカという方がバカなんだぞ!?」
「じゃあ、二回言ったから、お前の方がバカだな!」
「ちぃっ! 回数の問題じゃ無い! それに貴様も今ので二回言ったじゃないか!」

 寒気の起こる風切り音を唸らせた剣撃を繰り出し合い、避けあいながらも、互いの口から出るのは子供のようなやり取り。
 霞も、秋蘭も、二人のやり取りから、そして試合だと理解している為に、気を張る事すら無い。
 遠く、子供の喧嘩とも思えるそれを聞いて、呆れたように息を零した華琳は試合に目と意識を向けつつも、隣でぶすっとむくれながらも侍る詠に話しかけた。

「凪の一件を聞いた春蘭が徐晃と試合をしたいと言うからさせてみたけれど……これであの子の苛立ちが少しでも発散されれば御の字だわ。そう思わない?」
「……春蘭の苛立ちってなによ?」

 既に全員と真名を交換している為にそのまま呼んだ詠。
 言葉を受けて、行きかう刃を目で追いながら、華琳はふっと微笑んだ。

[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ