第一部 刻の鼓動
第二章 クワトロ・バジーナ
第一節 旅立 第二話 (通算第22話)
[1/3]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
先ほど、キグナン・ラムザ少尉が呼んだ様に、現在のシャアはクワトロ・バジーナ大尉である。これは、仮名でしかない。
アクシズに逃れたシャアは、政界から引退したダルシア・バハロの招聘とマハラジャ・カーンの特命でジオン共和国に戻ることになった。ダルシアは、アクシズと完全に秘密裏に接触し、その勢力をいずれ取り込んで、地球連邦軍に対抗できるだけの実力を育んで、ジオン・ダイクンの理想であるスペースノイドの自治をサイド3から徐々に広げて行くことを目的としたのだ。
シャアは閉塞したアクシズに見切りをつけた。地球圏に戻りたかったのである。ダルシアの思惑をシャアは認めなかった。ダルシアは現実的かもしれない。だが、それは結局、ギレン・ザビという独裁体制を築かせてしまったデギン・ザビと同じやり方でしかないからだ。多少、民主化してはいても、シャアには受け入れ難いものがあった。
だが、シャアはジオン共和国に復帰することを承諾した。それは、閉塞した空間に生きるアクシズの一種独特な体制に未来を見いだせなかったということもあったかもしれないが、シャアは自分の手で父の名を冠した国に報いたかったのだ。
ダルシアは、キャスバル・レム・ダイクンとして政治家になることを望んだが、シャアはそれを拒否した。ダルシアもそれを承服するとは思っていなかったのだろう。即座に軍への復帰を打診した。シャアは悩んだ。だが、結局、自分がジオン共和国にもたらせるものの一つに、ジオンの輝かしき一年戦争の英雄――《赤い彗星》としての知名度もあると考えた。ジオン共和国軍人として復帰に際し、准将へと昇進した。そして、第一連合機動艦隊――首都防衛艦隊の第一機動戦隊司令官への就任した。
タクシーがベイエリアに到着した。
――べいえりあデス。りょうきんノしはらイはイカガナサイマスカ?
耳障りな電子合成音が耳を撃つ。軽く舌打ちをして、カードをリーダーにかざす。ピッという読み取り音が鳴ってアリガトウゴザイマシタという声を聞かずにステーションホールに降りた。ベイエリアは駐屯する〈グラナダ〉基地とは丁度直角の位置に存在し、サブウェイでは一度中央ブロックに戻らなければ移動ができない。あの場所からであれば、タクシーで移動した方が早いのだ。場末のタクシーであるヴォーカロイドなどに金を掛けていられないのだろう。しかし、シャアにはそれが勘に触った。
ジオンとは違う宇宙であると強制されている様な気がするからだろうか。
だが、シャアは、気が軽くなっていた。動かずにじっとしていることは元々彼の性格には合わない。思わず、床を蹴って跳んだ。シャアの身体は六メートル以上の距離をゆるやかな弧を描いて滑空する。引力が約六分の一の月では軽く跳んだだけでこうなる。ジャンプの方角さえ間違えなければ、地上より便利なことは言を俟たない。
「
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ