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Shangri-La...
第一部 学園都市篇
第2章 幻想御手事件
七月二十二日:『待てば海路の日和あり』
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いる風はない。にこやかに笑っているが、額に青筋が見える。寧ろ、猛り狂っている。

――あぁもう、昨日の俺の莫迦! 熱くらい根性で計っとけよな!

 地団駄を踏みたくなったのを何とか堪え、応えるように頬をひくつかせて笑う。
 それに、ジト目で腕を組み、なんなら怒気すら孕んでいた当の黒子は。

「では、わたくしはこれで。お邪魔いたしましたわ。では、また明日ですの」
「あっ――――白井ちゃ」

 用件は済んだと、呼び止める暇もなく消える。『これだから空間移動能力者(テレポーター)は』と内心、肩を竦めて。

「じゃあ、卵で頼むよ、飾利ちゃん。梅干しは梅干しで食べるからさ」
「あ、は、はい……じゃあ、用意しますね」

 そんな黒子へと、悲し気な眼差しを送った飾利だったが……すぐにほんのり笑って卵を溶き始めた。

「あ、そうだ。ご免なさい、二人とも。私、ちょっと用事があったの」

 そこで、軽く掌を叩いた撫子が申し訳なさそうに扉に向かう。『表面的には』、申し訳なさそうに。
 すれ違い様――――耳元に、微かな囁き。

「良い子達ね、嚆矢くんの後輩さん達は。泣かしちゃダメよ?」
「え〜と?」
「ふふ。ダメよ、失望させちゃ?」

 『既に失望させちゃってる娘も居るんですが』の言葉は、唇に当てられた右人差し指。白魚のようなそれに、止められていて。

「失望してるなら、構いも、怒りもしないわよ。よく言うでしょ、『好きの反対は嫌いじゃなくて、無関心』だって」

 その言葉だけを残し、楽しげに去っていく背中を見送るしかなく。

「……まぁ、そりゃあ。年上の男ですからね、これでも」

 屋外の熱気にもう、汗をかく。今日も今日とて、真夏日だ。
 気合いを入れて欠伸をすると、支度しに自室に帰る。その後は、腹拵えだ。

「――――飾利ちゃん、幻想御手(レベルアッパー)事件の途中経過、聞かせてくれ」
「えっ? でも先輩、今日は……」

 食卓に着くや、開口一番そんな事を口にした彼に、『病欠』と聞いていた彼女は、面食らうように。

「休みは返上、第一、後輩が二人とも頑張ってるのにおちおち寝てる訳にゃいかないって。タダ働きも、たまにはね」

 いつの間にか――――学ランに『風紀委員(ジャッジメント)』の腕章を通した、()()()()()()()()()委員会活動中の姿で現れた嚆矢に。

「……はい! それじゃあ、ご飯を食べてから支部にあるデータを洗い直しましょう!」

 右腕を曲げて、日頃の部活動で拵えた力瘤を作って見せたその姿に……お粥を持ったまま、くすりと。

「そういう事を白井さんの前で言えば、見直してくれるのに」
「ハハッ、言った
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