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いがみの権太  〜義経千本桜より〜
第一章
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第一章

              いがみの権太  〜義経千本桜より〜
 平清盛の長子は重盛といった。平家きっての出来物でありその度量も才覚も清盛をして平家の柱であると思わせるものがあった。
 その子が平維盛であるが彼は美男子として知られていた。だが平家滅亡後彼はその行方を絶ち生きているかどうかさえわからない有様であった。しかし彼の正妻である若葉内侍は二人の間の子である六代連れて夫の行方を探していた。
 美しい女である。楚々とした細長い顔立ちをしており目は実に麗しい。髪は黒く絹のようである。その子六代も両親に似たのであろう実に整った顔をしている。その二人を前髪立ちの若武者小金吾が護っていた。
 凛々しい顔立ちをした精悍な若者であった。彼は二人の側を離れず始終護っていた。その一行は今大和の下市に来ていた。当然維盛を探してのことである。
「お父様はここにいるの?」
「そう聞いているけれど」
 一行は今団子屋で休息を取っていた。若葉はその中で我が子に対して告げていた。
「この大和に」
「はい、どうやらそのようです」
 小金吾が二人のその言葉に応えて述べてきた。
「維盛様に御会いできるのも間も無くです。もう少しの御辛抱です」
「わかりました」
 若葉が彼のその言葉を受けて頷いた。
「それでは暫く休んでそれから」
「また発ちましょう」
 こうした話をしていた。そしてそこに一人の若い男がやって来た。
 髪は剃っておらずそのまま髷にしている。服は町人のものである。はいているそれがいささか短く逞しいふくらはぎも見える。顔立ちは何処か目が鋭く左目の下に大きなほくろがありそれがかなり目立っている。
 その男がやって来たのだった。そしてすぐに周りを見回しだした。そうしてそのうえで言うのであった。
「ああ、居たな」
「むっ、そなたは」
 小金吾は彼の姿を見てすぐに立ち上がった。そうしてその手に持っている箱を差し出すのであった。
「よく戻って来てくれたな」
「お侍さん、それですよそれ」
 若い男は明るい声でその箱を指差しながら言うのであった。
「その荷物。間違えて申し訳ありませんね」
「いや、それはいい」 
 小金吾はこのことはいいとしたのだった。
「それはな。それよりもだ」
「はい。それじゃあ」
 まずは荷物を交換する。男は団子屋のその椅子のところで荷物を調べる。するとすぐにこう言いだしたのであった。
「!?ねえな」
「ないだと?」
「そうですよ。金がないんですよ」
 あからさまに怪しむ顔で小金吾を見ての言葉である。
「金がね。どうしたものですかね、これって」
「まさかとは思うが」
 小金吾はすぐに彼が何を言いたいのか察した。そうして眉を顰めさせて男に言うのであった。
「それがし達が盗んだとでもいう
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