第一章
[1/2]
[1]次 最後 [2]次話
ピカソの食道楽
パブロ=ピカソという。本名は異常に長いが本人もそれをいちいち言うことが面倒だったそうなのでここでは割愛する。
芸術家として知られている、そのあまりにも斬新かつ独特の絵は今も歴史的にも芸術的にも高い評価を受けている。
だがここではこのことも割愛する、もっと言えば彼の政治思想だの女性問題だのも割愛する。では何を書くかというと。
食事である、ピカソも人間であり食べる。しかも彼は食事においては女性と同じく楽しむ方だったことが知られている。その彼のことを今から書かせてもらう。
友人の一人がパリにあるピカソのアトリエに来た、それで苦笑いを浮かべて絵を描いている彼に言った。
「今日も強い匂いがするね」
「大蒜のかい?」
「うん、それがね」
こう彼に言うのだった。
「かなりするね」
「それはいいことだね」
ピカソは描きながら笑顔で友人の言葉に応えた。
「何しろいつも食べているからね」
「さっきもだね」
「さっきお昼を食べたばかりだけれどね」
「大蒜を料理に入れたんだね」
「たっぷりとね」
そうだと答えたピカソだった。アトリエは油絵の具の匂いもするがそれ以上に彼から大蒜に匂いが強く出ていて支配していた。
その匂いの中でだ、彼は言うのだった。
「入れたよ」
「好きだね、本当に」
「大蒜はいいものだよ」
にこりとしたまま言うピカソだった。
「僕の国ではふんだんに使っているからね」
「スペインではだね」
「勿論トマトもね」
スペイン料理の特色だ、このことはイタリア料理と同じである。だが彼はその中でも特に大蒜を好んでいるのだ。
「どっちも好きだけれど」
「とにかく君は大蒜だね」
「そうだよ、大蒜は僕のエネルギーの源だよ」
こうまで言うピカソだった。
「大蒜がないと絵も描けないよ」
「君の仕事もだね」
「そう、僕は大蒜がないと働けないんだ」
そしてだ、その働きはというと。
「絵も描けないんだよ」
「君にとっては描くことが労働だね」
「そうさ、労働者は労働している」
ピカソはここで自分の信条も述べた。
「そして芸術家はね」
「描くことが労働だね」
「そうして働かないと駄目だよ」
こう友人に語るのだった、描きつつ大蒜の匂いを放ちながら。
「そして働く為に」
「大蒜を食べるんだよ」
「アンリ四世みたいだね」
友人はここでフランスブルボン朝の初代国王の名前を出した。豪放磊落な性格の名君であり好色なことでも知られている。そしてこの王も大蒜を好んだことで知られている。
「それだと」
「そうだね、あの王様も活動的だったね
「そして君も活動的だね」
「大蒜を食べているからね」
それが為にだというのだ。
「僕は元気なんだよ
[1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ