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消えていくもの
第一章
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第一章

                     消えていくもの
 戦争が終わった。しかしそれだけではなかった。
 ありとあらゆるものが変わっていく。何もかもである。
 進駐軍が来てその司令官であるマッカーサーがありとあらゆる指示を出した。それにより日本は変わっていく。それはいいという意見もあればそうではないという意見もある。それは今も続いている。
 だが多くのものが消えていったのも確かだ。それはこの村でも同じだった。
「そうか、親父がか」
「ああ、遂にな」
「もう終わりらしい」
 その戦争が終わって数年経ち半島での戦争も終わった。それから暫く経ってからだ。広い屋敷の中の何十畳あるのかわからない部屋の中で十人程度集まって話をしていた。彼等はそれぞれ口を波線にさせて車座になりそのうえで話をしていた。
「癌だそうだ」
 彼等の中で一番年配と思われる中年の男が言った。
「胃癌らしい」
「癌か」
「爺様と一緒だな」
「そうね」
 彼等はその話を聞いてそれぞれ述べた。
「先祖代々だな」
「それにしても」
 ここで一同で彼等の中で一番小さな女の子を見た。まだ五つ程度である。
「文子が生まれてまだ五年なのにな」
「それで癌か」
「全くな」
「仕方ないんじゃないか?」
 高校生程度の丸坊主の少年がここで言った。
「人間は絶対死ぬんだしな」
「しかしな三郎」
 三十近い男がここで言った。
「文子はまだ五つだぞ。その文子を残してな」
「けれど次郎兄貴、親父も還暦だぞ」
 三郎はそこを言うのだった。
「それ考えたらやっぱりな。それも当然だろ」
「死ぬのもか」
「兄貴はそれわかってる筈だろう?」
 三郎はまた次郎に言ってきた。
「予科練にいたんじゃないか」
「まあな」
 それを言われた次郎は少し憮然となって応えた。三郎の言う通り彼は予科練にいた。特攻隊にはいなかったが最前線で戦ってきたのである。だから人の生死についてはわかっていたのである。その儚さというものを戦場で多く見てきたからである。
「じゃあわかるじゃないか」
「それでもだ。親父が死ぬのか」
「次郎」
 その年配の男が彼に声をかけてきた。
「三郎の言う通りだ。言っても仕方ない」
「まあな。兄貴もそう言うのか」
「ああ。俺は戦場には出ていないから生きるとか死ぬとかいうのはあまりわからないがな」
 彼もまた赤紙を受けたが内地に留まっていたのだ。陸軍の飛行場にいたのだ。
「それでも人は絶対に死ぬものだぞ」
「そうだな。死ぬな」
「それで一郎兄さん」
 次郎と少しだけ若い女がその年配の男に問うてきた。
「これからどうなるの?」
「どうなるか?」
「ほら、私は大阪にいるじゃない」
 彼女はまずは自分のことを話した。
「もう
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