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相棒は妹
志乃「うちの兄貴、年上です」
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、周囲の生徒達が囁き合っている。黒板の内容について相談し合っているのだ。こいつら、本当に初対面か?ってぐらいに慣れた感じだ。

 保護者の方からもブツブツ声が聞こえてくる。まぁ、正直そっちはどうでも良いな。

 その時、俺の背中にツンツンという違和感が生じた。当然、後ろの奴からだ。


 「……どうした、志乃」

 俺が嫌々ながら身体を捻らせ、志乃の方に向いた。すると志乃は嫌そうな顔をして目線を逸らす。

 「呼んでおいてそれかよ」

 「……あの質問、どうすればいいの?」

 そんな仏頂面して聞かれても。俺だってこんなのは初めてだ。

 でも、俺は内心あのハゲ頭に感心していた。

 あの教師は、通常ならあり得ない、予測すらしていなかったであろう質問を自己紹介の中に埋め込んで、生徒達の上辺だけの姿を取り除いたのだ。

 先程まで不良っぽく構えていた男子も、前に座っていた女子に話しかけられた途端、そんな素振りを一回も見せなくなった。寝ていた男子もマジな顔して周囲の連中とヒソヒソ話している。

 生徒達に余裕を失くし、周りの人と喋らなければならない状況を、いとも簡単にあのハゲ教師は作り上げたのだ。これに気付いた俺は、あの教師を素直に凄いと思っていた。


 「ま、好きな人って言うんだから、歌手でも答えとけばいいんじゃね?」

 「……その手があった」

 俺がなんとなく口にした意見を聞いて、志乃は珍しく目を丸くして、俺を凝視していた。いや、このぐらい頭に浮かぶだろ。

 今考えてみると、あの教師はマジで凄い。「人」なんだから、何も恋愛だけでは無いのだ。好きな歌手や芸能人とかでも問題ないのだ。

 他の奴らもそろそろそれらに気付いてきた頃だろう。その時には周りの奴らとも喋っている頃であり、生徒からすれば周りの奴と自然に話せた上に、質問が簡単だという事にも気付けて、一石二鳥だ。

 ここで本当に好きな人をぶちまける奴は、バカ丸出しだな。


 「えー、では、最初は出席番号一番からいきましょうか。どうぞ」

 担任がのんびりした口調で一番の奴を呼ぶ。同時に、教卓から見た一列目の一番左の席から椅子を引く音がする。

 出席番号一番は、そのまま自分の机の近くで回れ右をして、こちらに振り返る。


 「えと、谷川一中から来ました、五十嵐蘭子です!趣味は歌う事と運動する事で、部活には入っていません!」

 とてもハキハキした声で、その女子は自己紹介をする。目がくりくりしていて、とても活発そうな女子だった。染められていない髪は、一本結びにまとめられている。これは美少女といって間違いないだろう。


 「好きな人はー、ボクシングの中田さんです!一年間よろしくお願いします!」


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