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或る皇国将校の回想録
第三部龍州戦役
第四十七話 <皇国>軍の再動
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皇紀五百六十八年 七月十八日 午後第六刻
南方戦域〈帝国〉軍防衛線より北方一里 集成第三軍先遣支隊 支隊本部


「――以上が先遣支隊の編成構想であり、我々の作戦目標である。
この目標達成に至るまでの先遣支隊長としての構想を述べる。説明は首席幕僚が行う」
 浸透突破による指揮系統の破壊――その説明を受けた先遣支隊の将校達は顔を見合わせてざわめく。
 単なる夜襲ならまだしも、本来なら小隊、中隊規模が精々の浸透戦術を三千を超す大型聯隊規模で試みようと言うのはいかに二個大隊もの剣虎兵部隊を保持しているとはいえ思考の埒の外であった。
「先遣支隊本部 首席幕僚の大辺秀高です。さっそくですが、本構想についての説明を行わせていただきます。
支隊長殿の説明の通り、本構想の目的は払暁までに敵旅団、及び師団司令部を殲滅し、指揮系統を破壊、集成第三軍を主力とした反攻部隊の突破を支援する事です。
つまるところ、我々の努力の大半は敵の哨戒網に察知されずに浸透するか、に集約されます。」

「何か質問はあるか」
 戦務幕僚である石井少佐が指揮官達を眺めながら尋ねる。
「――宜しいでしょうか?」
 第十一大隊指揮官である佐脇少佐が手をあげた。

「支隊長殿、ならば戦闘が避けられぬ場合はどのようにするのでしょうか?」
 佐脇少佐が慎重な口調で尋ねる。彼の部隊が先導し、先遣支隊の状況を造る以上、当然の質問であった。
「遭遇戦状況に陥った場合は独自の判断で攻撃を行って構いません。但し、その場合は最優先で通報手段をつぶし、周辺部隊と連携して包囲殲滅を行なって下さい。一人も生かして帰すな、隠密性の保全が第一だ」
 
「一人も――ですか」

「当然です。我々の行動目的は指揮系統の破壊であり、兵力を削ぐ事ではありません。
警戒を強めた敵陣のただ中で消耗戦を行うつもりはない」無感情に首席幕僚は語る。
「今現在、我々が血を流して良いのは敵司令部を潰す時だけです。
敵と遭遇した時点で作戦破綻の危機にあるのです――」




 大辺秀高少佐は不安げに自身の上官へと囁いた。
「よろしかったのですか?第十一大隊に先行を任せると言う事は佐脇少佐に主導権を与えることになりますが」

「構わんさ、遠隔捜索は我が聯隊の導術部隊に任せる事になっているからな、情報は此方とも共有せざるを得ない。貴重な捜索大隊との連携が上手くいかない可能性を潰す方が先だ。信頼を見せてやらねばならんだろうよ」
 支隊長となった馬堂豊久中佐は、何ら気負う様子を見せずに答えた。
 こうした気遣いは幕僚である大辺達から見るとやや過剰であるが彼自身は将家と云う生き物の事を深く自覚しており、今回の急な作戦に護州の臭いを(確証がなくとも)嗅ぎとっていた。この手の餌を与えて分裂を煽るや
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