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【短編集】現実だってファンタジー
俺に可愛い幼馴染がいるとでも思っていたのか? 中編
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が、恋愛感情となると持っていない。可愛いし、一緒にいて悩まされることは多くても決して嫌いな訳ではない。だがそれと恋愛感情の間に「こいつは誰だ?」という根源的な認識の壁が立ち塞がっていて、それを突破できない。
もしも俺が異常なのだとしたら俺はずっとこの壁を突破できないし、いりこの想いも壁を突破できない。仮に彼女が何かしらの要因を作っていたのだとしたら、彼女は人に色々と言う癖をして壁の向こうに引きこもっていて本当の想いを伝えあうのは無理だ。

では仮に、最初から壁が無くて俺と彼女が普通に当然に幼馴染だったら?
俺が彼女に好意を抱く可能性はあったかもしれない。だが、特別な人間でもない俺を何故、という疑惑が生まれれば俺は答えを出せずに逃げるかもしれない。あるいは本当は好きなのに素直になれずに嫌いというとか、何か勘違いを誘発する言葉をかけてしまうかもしれない。

しかし、これは不思議なことではないだろうか。2つのシチュエーションに置いて違うのはそれまでの俺の認識の中での「幼馴染」という絆の積み重ねの有無だけであり、彼女自身にはどちらのケースでも何の変化もないと考えれば、全ては俺の内心の問題だ。だけれども、俺はその大きな差異があるにもかかわらず後者の道で随分とネガティブな推論を行っていた。つまるところ、俺の言った認識の壁とは、実は後者においても存在するのではないか?それが名前を変えただけで、結局心の壁は立ち塞がるのではないか?

「俺は・・・」
「ッ!ごめん、変なこと言った!忘れてね!!」
「あっ・・・おい、ちょっと待て!」
「嫌!!」

咄嗟に伸ばした手は空を切る。強い拒絶を含んだ言葉だった。

足早に去ろうとする彼女の後ろ姿を見て俺は咄嗟にしまった、と思った。下らない問答を頭の中で繰り広げたせいか表情が硬いものに変容していたらしい。彼女はそれを俺の認識と違う方向に解釈してしまった。すなわち、迷惑に思っていると事実を錯誤した。でなければ、涙など流す訳が無いじゃないか。

今まで、幼馴染だという記憶はないからずっと距離を置いて来た。その距離が、実は俺が勝手に想像した認識の壁だったとしたら、俺が彼女を好きではないと思っていたその事実さえ俺の実情とたがえたものなのかもしれない、と俺は考えたのだ。結果などどうでもよく、可能性の模索の一つに過ぎない。

なのに、俺は何をこんなに焦っているんだろうか。

明らかにいりこは前を見て歩いていなかった。ただ堪える感情を俺に見せまいと、一刻も早く俺の視界から去ろうと歩幅を大きくしていき、とうとう耐えられなくなったかのように走り始めた。抱えたノートはばさばさと上から床に滑り落ち、俺も持っていたプリントを床にぶちまけて走る。

速い。いりこが運動もそこそこできる事は知っていたが、想像以上の脚の速さ
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