暁 〜小説投稿サイト〜
乱世の確率事象改変
風吹く朔の夜、月は昇らず
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 その少女――風は一人、執務室の椅子に座りながらコックリコックリと船を漕いでいた。
 机の前に積まれた膨大な書簡の数々は重要な案件ばかり。しかして、その全てには裁量済みとの判が圧されていた。
 夕の斜陽は窓から差し込み、彼女の背を優しく照らす。仕事を終えて一休みのこの時間、食事に行きますよと起こしてくれるはずの親友はまだ帰っていない。
 ただ……ここ半月前から起こしてくれるモノが現れた。
 乾いた音が二つ。リズミカルに来客を知らせてくれるそれの名を風は始め知らなかった。呼び名を教えて貰い、答えを返さなければどうするのかと聞けば、

「風、起きてるかー?」

 このように声を掛けてくれるらしい。本来は居るかどうかを聞くものらしいのだが。
 それでも返さなければどうするのか、と気になって試した事もしばしば。今回も同様に返さなかった。
 答えは急ぎの用があれば扉を開けて確かめ、急ぎでなければ帰っていく。その二つを行うようにしているらしい。
 ただ、彼と風の場合は少し違った。扉が開かれ、彼はさもそうするのが決まり事であるかのようにツカツカと彼女の眠りこける椅子に歩み寄る。そして――

「起きろ、ねぼすけ」
「おおっ」

 軽く、目を瞑ったままの彼女のおでこが指で弾かれた。
 条件反射的に手で摩るも、彼のデコピンは絶妙な力加減で痛みは無い。

「おはよう、良く眠れたか?」
「お兄さんがあまりに遅いので、ついうとうとしてしまったのです」
「クク、遅くなくても同じだろうに。今日の警邏で気付いた点の報告。区画毎のゴミ収集がバラバラだったから日取りを決めて一気に出させた方がいいと思う。させるなら日による分別も出来たら尚いい」
「ふむ、中々いい案かと。他には何かありますかー?」
「うーん……あ、食事街のネズミが目立つ。民に募集を掛けて定期的に駆除させるとかどうかな。各店の食事割引札なんてのを配ったら国庫から資金を出す必要もないし、客足も増えるかなーと思うんだが……」
「おお、娘娘の店長さんが料理人達に顔が効くので華琳様の裁量を頂いてから話しましょうか。割引札、というのは店ごとに独自で出しても効果があると思いますし」

 何気ないやり取りのように、彼と彼女は話を進めて行く。秋斗に警邏をさせる、というのは華琳が治める街にとって思わぬ収穫を齎していた。
 初めは武力が高く、名も売れているのだから治安維持の役に立つだろう程度の認識だったが、歩かせてみると帰ってくる度に気付いた事を次々に提案してくるのだ。
 全てが、とは行かずともほとんどが街の改善に繋がるものであり、さしもの風も思わず舌を巻いていた。

――お兄さんはこれまでどんな街を見てきたんでしょうか……

 風は訝しんでいた。
 街の改善案はまるで何処かの街を元にし
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