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心の傷
第五章
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第五章

「所詮はだ。下らない者達だ」
「それは何故でしょうか」
「卿を傷つけそれを楽しんでいる。人の痛みがわからない」
「人の痛みが」
「そうした連中なぞたかが知れている。下らないと言わずして何だ」
「左様ですか」
「そうだ。そしてだ」
 その言葉が続く。侯爵に対する言葉がだ。
「卿は痛みがわかったな」
「はい、よく」
「自分に対してだけでなく他の者も痛みもまた」
「少なくともそれはわかった筈だ。ならば他の者にはしないな」
「それは」
 する筈がなかった。彼の受けた傷はそこまで深かったからだ。人は痛みがまりにも深く強いと他の者にそれをすることはなくなるものだ。
「何があっても」
「卿はそれがわかった。だがあの連中はそうではない」
「あくまでなのですね」
「そうだ。卿はあの連中を遥かに越えることができた」
 侯爵の心に語り掛けている言葉であった。
「そして本当の意味で優しくもなれるな」
「他人に。誰であっても」
 侯爵は確かな言葉で公爵に返した。それは確かだった。どんな者であってもそうしたことをしようとは決して思えなくなっていたのも確かだ。
「私は」
「ならばいい。だが他の者はまだ信じられないか」
「はい、それは」
「だが。信じてみるのだ」
 公爵の言葉は温かいものになっていた。その傷だらけの左半分の顔の唇も動く。唇もまた傷だらけだがそれでも動きはしていた。
「せめて家の者達だけでもだ」
「彼等をですか」
「彼等は卿を心から気遣っている」
「私を馬鹿にしているのではないですか?」
 侯爵はこう公爵に返した。
「そうではなく」
「それはない」
 あくまでないというのだ。
「目を見るのだ。相手の目を」
「目をですか」
「それでわかる。卿を気遣っている者か馬鹿にしているのかはな」
「それでわかるというのですか」
「そうだ。それでわかる」
 公爵はこのことも話したのであった。
「目に全てが出るのだから」
「目で」
「私の目はどうだ」
 実際に彼自身の目を話に出して来た。
「この私の目は」
「卿の目はですね」
「うむ」
「強いです」
 侯爵は彼の目を見ていた。そしてそのうえで答えたのである。
「それもかなり」
「そうか、強いか」
「そして私を見てくれています」
 このこともわかった。
「奥深くまで」
「それがわかるのなら充分だ」
 それでだというのだ。
「それでだ」
「左様ですか」
「人を見るのだ。その目を」
「目を」
「そう、目をだ」
 また話す彼だった。
「わかったな。それではだ」
「はい、それでは」
「目を見て。そのうえでだ」
「わかりました」
「少なくともこの屋敷にはいない筈だ」
 公爵はこのことは保障した。
「だから
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