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星の輝き
第32局
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持ち主が桑原本因坊とは予想もしていなかっただけに、その驚きは大きかった。

「店主から連絡を受けた時は誠に驚いたもんじゃよ。まさか、名人ゆかりの者が届けてくれるとはの」
「私も驚きましたよ、まさか桑原先生の名前が出てくるとは、思ってもいませんでした」
「ま、それで礼を言いがてら、今度の碁聖戦への挑戦者としてのあいさつも兼ねてな、今日は足を運んだんじゃ」

―しかし、この進藤という少年、何やらただならぬ気配を感じる…。どうやらただの小僧ではないようじゃ。これは、わざわざ足を運んだ甲斐があったというものじゃの。

「それにしても、進藤といったの。これだけの品を見つけていながら、皆に見せておらんとは何とももったいない。これも何かの縁と思っての、今日は皆に見てもらおうと持参したのじゃ。そこのテーブルを借りるぞ」
「アキラ、折角だ、明子も呼んでくるといい」
「あ、はい」 

 行洋に告げられて、別の部屋にいる母明子を呼びに行くアキラに、ヒカルは声をかけた。

「あ、塔矢、ついでにきれいな水を汲んできてくれないか」
「きれいな水?」
「ああ。桑原先生、いいですよね」
「ほぉー、そこまで知っておったか。いや、若いのに大したもんじゃ。ああ、かまわんとも」



「失礼します。ご一緒させてもらいますね」
「進藤、これくらいでいいのか?」
「ああ、十分だ」
「そろったようじゃの、では」

 桑原はそういうと、箱の中にしっかりとしまってあった花器を包み毎取出しテーブルの上に置いた。そして静かに包みを開いた。

「…花器って言うから、花瓶みたいなものかと思ってた…」

 花器を見た奈瀬は思わずつぶやいた。白地に藍色の模様が描かれた、とても澄んだ色の深皿のお皿のような陶磁器だった。

「さて、進藤、ここからどうするかわかるな?」
「はい。塔矢、水借りるな」

 ヒカルは答えると、花器に水を注いだ。
 するとなんと、注がれた水の底に、たくさんの小さな花模様が浮かび上がったのだ。

「うわー、きれー」
「すごぉーい!」
「なんと!」
「これはまた…」

 それを目にした全員が、あまりの美しさに感嘆の声を上げた。

「普段は大事にしまっておくことが多かったからの。ワシも実に久しぶりじゃ。実に見事なもんじゃろう」
「花器は花を活けてこそ花器。弥衛門、最後の傑作だってさ。特別な釉薬(うわぐすり)が塗ってあるから、他の作品とは違って見えるらしいよ」
―やっぱり、何度見てもスゲーな。
―ええ。私と同じように、長い時の流れに身を置いているこの花器に、また巡り会えるとは。なんと感慨深いことか。

 ヒカルの言葉に、桑原は改めてうなずく。
「さよう。それゆえ、一般には幻の花器とも呼ばれておるのじゃよ」

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