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銀河英雄伝説〜美しい夢〜
第十三話 ベーネミュンデ侯爵夫人(その7)
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になってアスカン子爵家の家運は上昇した。彼女はアスカン子爵家にとって金の卵を産む貴重な鶏だった。彼女が金の卵を産むたびに子爵家は荘園や利権を手に入れる事が出来た。貧しさは過去のものとなり、にわか成金と蔑まれても安定した収入が有る事にアスカン子爵家は十分に満足していたはずだ。

侯爵夫人が初めて懐妊した時、アスカン子爵家は喜んだだろう。男子が生まれれば彼女が皇后になるかもしれないと噂が流れた時は狂喜したかもしれない。外戚となれば強大な権力を持つ事が出来る。そしてアスカン子爵家は皇后を輩出した名家として後世まで大切にされるだろうと、にわか成金と蔑まれる事も無いだろうと……。彼らにとっては眩いほどの未来だったはずだ。

だが生まれた子が殺された事で全てが一変した。アスカン子爵家はようやく権力の持つ恐ろしさを実感したのだ。そして自分達の敵となるであろう存在を初めて認識したに違いない。ルードヴィヒ皇太子、ブラウンシュバイク公爵家、リッテンハイム侯爵家……。いずれもアスカン子爵家にとっては強大すぎる存在だった。

アスカン子爵家は怯えた。元々政治的な野心など無かった家だ。外戚への夢など簡単に捨てたに違いない。今のままで十分、詰らぬ野心などで今の繁栄を失いたくないと……。だが彼らにとって不幸だったのはそんな彼らの決意とは無関係な所で事態が動いたことだった。すなわちフリードリヒ四世が侯爵夫人を愛した事だ。

愛していれば子供が出来るのは当たり前の事だ、それほど騒ぐ事ではない。むしろ一般家庭では子が出来ぬ方が問題になるはずだ。しかしアスカン子爵家にとっては侯爵夫人の再度の懐妊は悪夢だっただろう。自分達を滅ぼすのかと恐怖し運命を呪い、そして侯爵夫人を憎悪したに違いない。子爵家にとって金の卵を産む鶏は子爵家を滅ぼす猛毒を吐き出す蛇に変わっていた。

アスカン子爵家にとって侯爵夫人はただの寵姫で良かった。母になどなる必要は無かった。適当に寵を受け、時々アスカン子爵家に恩恵を与えてくれる存在で良かったのだ。そしてアスカン子爵家は侯爵夫人が母親になる事を阻んだ。侯爵夫人は三度にわたって流産する事になる。幻の皇后は幻のままで終わった。

アスカン子爵家にとっても苦しい決断だっただろう。事が表沙汰になれば当然だがアスカン子爵家は咎めを受ける。おそらくは全員賜死の上、家名断絶は免れなかったはずだ。アスカン子爵家は権力争いを生き残れる可能性と犯罪を隠し通せる可能性を天秤にかけた。そして彼らは決断した。シュザンナを流産させろ……。

ベーネミュンデ侯爵夫人がフリードリヒ四世から遠ざけられたのはそれが原因だった。おそらくフリードリヒ四世は流産が続いた事に不審を抱いたのだろう。そしてアスカン子爵家が侯爵夫人の懐妊を喜んでいないことを知った。最初の子がルードヴィヒ皇太子に殺
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