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SAO−銀ノ月−
第六十五話
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なく、今までずっと剣術をしてきた俺にとっては、母にも父にも申し訳がたたないでいた。あの離れを自分の部屋にしてもらったのも、それが理由の一端だが……さらに俺は再び、VRMMOの世界へと旅立っている。もう二度と関わるまいと思っていた、あの世界に。

 ……なんて、取り留めもない上に意味もない思考をしている内に、自分の前に用意されていた晩飯が無くなっていた。無意識に食べてしまうとは、何とももったいないことをしたものだ。最後に麦茶でも一杯飲もうかと思ってコップに手を伸ばしたが、運悪く空であり、麦茶が入ったボトルも食卓の上にはない。

「今、麦茶持ってくるわね」

 それぐらい自分で持ってくる――と言う間もなく、母がキッチンの方へと歩いて行ってしまう。母の緑茶も無くなっていたようなので、ついでといったところだろうが、無愛想な父とは逆で母は気配りが出来すぎる。

 俺の横では父の食事も終わったようで、静かにその箸を置いて食事に向かって礼をしていた。……その動作を見て自分が礼をしていないのを思い出し、慌てて御馳走様、と手を合わせていると父がこちらの方を向いてきた。

「翔希。何か目標でも見つけたか」

「え?」

 父からこうして話しかけてくるとは珍しい、とも思いつつ、その言葉の意味を吟味する。新しい目標とは――ALOのことだろうか。父がそのことを知っている筈がないので、ALOのことを言っているわけではないだろうが、俺にとって新しい目標と問われれば、ALOでキリトに恩返しをすること以外はない。

 ……ALOでキリトに恩返しをすることは、自分にとって新しい目標となるほどになっているのが、むしろ少し驚いている。もちろん手を抜いているわけではなく、あの今までの目標を奪ったVRMMOが、新たな目標となっている――といった事実が意外だった。

「どうなんだ?」

「あ、ああ。そんな大それたことじゃあないけど……」

 やっていることを客観的に見ればただのゲームなのだから、大それたことも何もない。だが、SAO事件を経験したものにとっては、VRMMO世界は……もう一つの世界だった筈だ。ならば、その世界で恩人であるキリトを手助けするのは、当面の目標となるほどのことの筈だ。

「なら、その目標を今は全力で取り組め」

「…………」

 しかし先程言った通り……客観的に見ては、ただゲームをやっているだけなのだ。アスナを助けるとは言っても、あのALOとSAO事件の未帰還者が関係しているかも定かではないのに、こんなことをやっている意味はあるのか。……自分から首を突っ込んだくせに、煮え切らないのは分かっているが。

「色々と考え過ぎて迷うのが、お前の悪い癖だ」

 父の言葉にハッとなってその顔を見る。父は普段通りの仏頂面のままだった
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