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或る皇国将校の回想録
第三部龍州戦役
第四十五話 〈帝国〉の逆襲
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皇紀五百六十八年 七月十八日 午前第十一刻半 
近衛総軍主戦場より後方三里 近衛総軍司令部
近衛総軍 参謀長 益満昌紀大佐


「・・・・・・」
 地図に書き込まれた情報に自軍の情けない現実を読み取った益満参謀長は再び眉を顰めた。

 集成第二軍は変わらず防戦に徹し、最初期から交戦し続けた龍州軍は後方にさがり、再編と補充を行っている。この二つは現状では動きがない。
そして集成第三軍は順調に進撃を行っている。既に師団予備と思われる敵部隊を独立混成第十四聯隊が潰走に追い込んだとの報告が入っている。正面に投入された部隊は順調に戦力を集中しており、敵旅団は土地を捨て、防衛線の縮小を行わざるをえなくなっている。
 だが、序盤に第三軍主力が潰走に追い込んだ敵部隊も一応の補充と再編を終えたようであり、第21師団と第三軍の双方が戦力を集中させており、現在の龍口湾における戦場の焦点は集成第三軍の担当戦域となっている。がその一方で同じく反攻戦力となったはずの近衛総軍は一個大隊を壊滅させるにとどまり、今現在は膠着状態に陥っている。近衛総軍の常備銃兵部隊である第五旅団を初めとする衆兵隊が攻撃衝力を維持できなかったからだ。
 ――なんとも情けない連中だ!仮にも志願兵ならば少しは護国の意志を示そうとは思わんのか!
こうして膠着状態に陥った近衛に注目する者はおらず、この戦は集成第三軍が如何に攻勢を継続できるか、それとも〈帝国〉軍がそれを挫くか、となっている。

「今現在、近衛全隊が主戦場から外れておりますな。別段、どうこう云うつもりはありませんがこのまま進むと思えませんね」
 戦務参謀の葛原中佐が拗ねた様子で鼻を鳴らした。西原の分家筋だが軍人というよりも学士肌らしく、軍服が恐ろしく似合っていない。平時では評判の良い男だったのだが北領で敗走した旅団の幕僚だった事と守原分家の血をひく旅団長を死なせた事で近衛衆兵隊に追いやられた不運な男だった。

「第三軍の司令部は中々の采配ぶりだがこのまま彼らが本営まで到達できると思うかね?」
 近衛総軍司令長官・神沢中将ががっしりとした顎を掻きながら云った。五将家の一角である安東家の分家筋だが安東閥の一員と言うよりも近衛中将としての立場に親しんでおり、実務家と評されている。益満大佐にとっても良き上官であった。
「はい、閣下。友軍は優勢を保っておりますが、勝ちは続かないと考えて行動するべきです」
と益満昌紀は近衛総軍参謀長の立場を崩さずに言うが、西津中将の采配には少なからず舌を巻いていた。
 ――あの、こう言ってはアレだが怪しげな新設部隊を敵予備部隊に対し投入した判断は素晴らしい度胸だ。あそこで騎兵を叩けた事は大きい、騎兵を補充する事は如何に〈帝国〉であっても困難な事だろう――長期消耗戦に持ち込むのならば尚更だ。

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