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渦巻く滄海 紅き空 【上】
七十二 前夜
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情に見返した。ひしひしと伝わる高揚感に眉を顰める。
イタチが沈黙を貫く一方、鬼鮫は昂る気を抑えられなかった。

愉しくて仕方が無いとばかりに肩を震わせる。イタチが『暁』を裏切った、と聞いた当初、鬼鮫の心中を占めたのは遺憾や悲懐などではなく、歓喜だった。
一度戦ってみたいと思っていただけに、嬉々として彼はイタチの後を逸早く追ったのである。


「やはり削りがいのある御方だ…」
頬から滴る血が糸を引く。唇まで垂れてきた鮮やかな赤を鬼鮫はぺろりと舐めた。
間髪容れず、物凄い速さで突撃する。主同様、大刀『鮫肌』が舌舐めずりした。その巨大な口を開ける。イタチが静かに身構えた。




瞬間、脳裏に声が轟く。
『止めろ、鬼鮫』




突然頭に響いたペインの声。
だしぬけに聞こえてきた『暁』のリーダーの発言に、鬼鮫の動きが一瞬遅くなる。その僅かな隙をイタチが逃すはずもない。
「【火遁・豪火球の術】!」

巨大な火球が鬼鮫目掛けて遅い来る。己を包み込むほどの火の玉を目の当たりにして、鬼鮫は慌てて印を結んだ。
凄まじい白煙が天を衝く。


「邪魔しないでくださいよ!」
棚引く煙からザッと身を引く。どうにか水遁で火を打ち消した鬼鮫は、【幻灯身の術】で交信してくるペインに苦情を申し立てた。
しかしながら文句を受け流したペインから思いもよらぬ言葉を聞き、顔を歪ませる。

『イタチを追うな。戻れ』
「冗談言わないでください。獲物を前にして狩らないなんて…ッ」
『奴の相手は他の者がする。そいつに任せろ』
不満げな顔を露にする。目の前にいるイタチに視線を這わし、鬼鮫はふんっと鼻で笑った。
「裏切り者には死を―――。その格言はこの私が実現させます」
『鬼鮫!!』

ペインの叱責を無視して、鬼鮫は再び鮫肌を振り被った。イタチ目掛けて振り落とす。
巨大な歯が見えるほど迫り来る大刀。それをイタチは何の気なしに見ていた。身動き一つしない。
避けようとも反撃しようともしない彼を、鬼鮫は訝しげに見た。




刹那、鬼鮫の顔が凍りつく。




バシャッと上がる水飛沫。鮫肌が手から零れ落ちた。眼を見開いたまま、ゆっくりと倒れゆく。


突然卒倒した鬼鮫をイタチは黙って見下ろした。完全に意識を失っているのを見て取って、おもむろに顔を上げる。

【火遁・豪火球の術】を相殺した名残か、辺りは水蒸気に満ちている。靄の中、寸前まで鬼鮫が立っていた場所でゆらりと影が揺れた。
それを目にして初めて、イタチは表情を崩した。微笑む。


「また会えて嬉しいよ、ナルトくん」
「俺は会いたくなかったよ、イタチ」



徐々に晴れゆく霞。曙の空を背に、彼は黒き赤雲の羽織を揺らした。哀しげに目を細
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