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渦巻く滄海 紅き空 【上】
七十二 前夜
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蛇丸の恐ろしさを知っているはずの綱手。その彼女がやけに余裕染みている風情に益々顔を顰める。

怪訝な顔のシズネの前で、やがて綱手は軽く肩を竦めてみせた。
「…大方また、木ノ葉を襲うだろうな」

シズネは息を呑んだ。断定に近い綱手の一言は彼女の不安を更に煽る。シズネの動揺を余所に、綱手は更に言葉を続けた。


「アイツは完璧主義者な所があったからね。三代目だけじゃなく、木ノ葉の里までも完璧に潰さないと気が済まないだろうさ……全く性質(タチ)が悪い」
「そこまで解っているのなら…ッ、」
苦い笑みで告げる綱手の発言に、シズネは勢い込んだ。だが途中で思い直したのか、大きく息をつく。ややあって話し出した声音は寸前より幾分か落ち着いていた。

「ですが、綱手様以上の医療忍者は他にいません。もし貴女が奴の誘いを断れば、もう二度と…―――」
「…それは断言出来ないね」
「な、何故です!?」
しかしながら、ゆるゆると頭を振った綱手の言葉で、やはり彼女は声を荒げた。
「私が見た限りでも、あの腕の傷は誰にも治せない…!他ならぬ綱手様、貴女以外には――」
「…………」

意義を唱えるシズネに対し、綱手は暫し無言だった。猶も食い下がり、「綱手様が治さなければ…あの腕は一生使い物にならないでしょう」とシズネはきっぱり言い切ってみせる。しかしながら、その結論にも綱手は何の反応も示さなかった。
自身の意見に同意を示さぬ彼女の態度を見て取って、シズネは顔を伏せた。一瞬逡巡した後、低い声で訊ねる。

「…それとも綱手様は、」
硬い表情を崩さぬまま、問う。その詰問は、ひっそりとした廊下で静かに響き渡った。
「奴らの……口車に乗るおつもりですか」

廊下の片隅。壁を背に沈黙を貫いていた綱手は、視線で返答を急かすシズネから顔を逸らした。腕を組み直す。
更に問い質そうとシズネは口を開きかけるが、綱手の眼がそれを良しとしなかった。

「シズネ、お前…いつからそんな口が利けるようになったんだい」


決して大きくない。だが有無を言わさぬ押し殺したその声は、シズネの身体を強張らせた。
鋭い眼光に射抜かれ、顔を上げる事すら叶わない。動けぬ彼女を綱手は暫し眺めていたが、やがて深く息を吐いた。ゆるゆると頭を振る。
「……勘違いするな。ただ、」

そこまで言って、綱手は出かかった次の言葉を静かに呑み込んだ。途切れた会話の中、シズネが顔を上げるより先に、当たり障りのない答えを告げる。
「…私に頼らずとも、奴なら腕を治す方法を他にも考えつきそうだと思ったまでさ」
不満げだが、やむなくシズネは頷いた。それでも猶物言いたげな彼女を、綱手はいい加減休むよう肩をぽんっと叩いて急き立てる。
アマルの件でここ最近二人には気が休まる暇など無かった。綱手同様
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