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ボロボロの使い魔
『パスタ』
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を使い果たした事で彼の治療は行われた。
だが、その誤解をルイズが解くことはけしてしないだろう、そんな事でこの男を従わせるなど彼女自身が自分に許せないから。

「…そう」

会話が途切れた。
元々、ずっと孤独をよしとして過ごしてきた少女だ。
ろくに知りもしない男と喋り続ける能力は持ち合わせていない。

そしてルイズの話が終わったと認識した橘は
ルイズの前に『それ』をつきだす、量だけは大量にあったから両手持ちで、笑顔で。

「なぁ、これ食ってもいいかな?」  

「…好きにすれば?」

異臭や見た目を気にしていないのは、それだけ空腹だからということだろうか。
だが、一口食べれば橘も理解し吐き出すだろう。
また、朝のように剣呑な視線で睨まれ不機嫌な顔で出ていってしまうかもしれない。

それがわかっていながらも、ルイズは橘が『それ』を食べるのを止めなかった。

もう、何もかもがどうでもよかった。
朝から苛々し続けて、モンモランシーと喧嘩して、橘の『変身』に驚いて、食堂で延々失敗し続けて。
ルイズの精神はボロボロだった。
もう、どうでもいい、さっさとこの不味いパスタを食べて怒ればいい。
何一つまともに為せない自分など見捨てて、どこになりとも行ってしまってくれればいい。
そう、思った。

…そう、思っていた筈なのに。


「貴方…何で…何でそんなもの食べられるのよ…!」

男はそれを捨てず食べていた、笑顔で。

「?いや…結構ウマイぞこれ…君が料理を得意だとは思わなかったな」

そして、また食べる、ガツガツと美味しそうに。

「そんな訳ないじゃない…!そんな訳…っ!」

絶対に嘘だ、自分も味見をしたからこそわかる。
『それ』は人間の食べる物の味では無かった。
なのに何故、あんな不味い物を旨いと言い張り食べるのか。

「…………っ!」


わかっている、もうルイズにもわかっていた。

この男はどうしようもなく馬鹿で、馬鹿で…そして優しいから。
だから、私を傷つけない為に、この不味いパスタを笑顔で食べている…!

「ぅ……っ…ひっく…ぅ…ぅう」

駄目だ駄目だ、こんな所で泣くわけにはいかない。
自分は立派な主になると決めたのだ。
これ以上、彼の前でみっともない所は見せられない、見られたくない。

だけど、もう止まらなかった。

「ぅぁ…ぁあああっ…ぅわぁああああああぁああん!」

情けなくて、申し訳なくて。
そして…嬉しかった、ただ嬉しかったから。
涙が止まらなかった。

そして、橘は何も言わず、ただパスタを食べていた。
何も言わず
ルイズが見られたくないであろう姿に視線を向けることもなく。
ただ、ずっと橘はパスタを食べ続けていた。
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