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女の首
第一章
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                  女の首
 中国明代中頃の話である。武漢のある飲み屋についてこんな噂が出ていた。
「女の首がか」
「うむ、出るらしいぞ」
 そうだというのだ。
「店の壁に穴が開いているがな」
「そこから女の首が出るのか」
「そうじゃ、それで宙に少し浮かんでは穴の中に戻ってまた消えるらしいぞ」
「またそれは面妖じゃな」
「全くじゃ」
 こうした噂が出ていた、そしてその噂を聞いて。
 徐という街の野菜売りがだ、その店に言って確かめようと思った。それで彼は街の市で彼と同じく店をやっている面々に言った。
「あの女の首が出るという飲み屋に行ってみるか」
「それで女の首が本当に出るかどうかか」
「確かめるのじゃな」
「そうじゃ」
 そうしようかというのだ、噂が本当かどうかだ。
「話を聞く限り首は特に襲い掛かって来る訳でもない様じゃしな」
「ふむ。それではか」
「実際に行ってみるか、その飲み屋に」
「それで見てみるか」
「そうしようか」
 仲間達も徐のその言葉に頷く、そしてだった。
 徐はその仲間達と共にその居酒屋に来た、居酒屋は噂がまことかどうか確かめたい客達で一杯だった。店の親父は笑顔でこう言うのだった。
「いや、女の首のお陰でね」
「店は繁盛してるんだな」
「全くだよ」
 徐にも笑顔で言う。
「本当に出るからね」
「これが出るんだよ」
「本当にな」
 他の客達も言う、その通りだとだ。
「いや、この穴からな」
「そこか」
 店のだ、北側の壁の真ん中にその穴はあった。穴は徐の人差し指が入るかどうかという位の大きさである。
 その穴を見てだ、徐は首を傾げさせた。
「こんな穴から女の首が出るのか?」
「小さ過ぎないか?」
「そうじゃな」
 仲間達もいぶかしんで徐の言葉に応える。
「この大きさではな」
「ちょっとのう」
「穴が小さくてのう」
「とてもな」
「女の首どころか鼠ですら出入り出来ないだろう」
「こんな穴から女の首が出るのか」
「噂は本当らしいが」
 店の親父だけでなく店の常連と思われる客達も言っていることだ、それなら事実と思っていい。だがだった。
「それでもな」
「この穴だとな」
「出られないだろ」
「女の首なんてな」
 彼等は人間の首の大きさを考えていた、そしてだった。
 徐は店の親父にだ、このことを尋ねたのだった。
「親父、首の大きさは」
「普通だよ」
「人間の首とか」
「ああ、そうだよ」
 まさにだ、普通の大きさだというのだ。
「大きくも小さくもないよ」
「その首がこんな穴から出るのか?」
「そうだよ」
 まさにその通りだというのだ、親父は徐に笑って話す。
「まあ見たらね」
「わかるんだな」
「そうだよ、見てみるか
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