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魔法少女リリカルなのは ViVid ―The White wing―
第二章
十八話 Lost memory
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人間には、記憶の開始地点と言う物がある。
その人が、何歳の時の記憶からなら、頭の中にぼんやりとでも思い浮かべる事が出来るか。所謂、“物心つく”と言われる其れだ。

高町ヴィヴィオの記憶の明確な開始点が、何時、何処の物なのかは、本人にすら良く分かって居ない。自分が水の中のような、周囲に気泡が浮く場所に居て、その先のガラスと、ガラスの向こうの人影が見えるような、そんな状態。
それだけで有り、それ以外では無い。

次に浮かんでくるのは、母。なのはと、初めて会った時。
何処であるか知らない、緑色の庭園で(後に聞いた話では、聖王教会の庭先だったのだそうだ)何かを探していた自分に声を掛けてくれた、まだ母で無かった頃の母の記憶だ。

その次の記憶は、朱い髪の誰かが、自分を抱いて歩いて居る記憶。もう誰だかは分からないけれど、優しかった筈の“その人”の記憶が、ヴィヴィオの脳裏にはまだこびりついて居た。

其処までは、覚えている。なのに、それなのにどう言う訳か、その後の記憶がヴィヴィオには殆ど無い。……いや。正確には、今自分の兄として居る彼……クラナ・ディリフスの記憶が、ヴィヴィオには殆ど無いのだ。
彼と何時出会ったのかも、どんな話をしたのかも、どんなふうに遊んだのかも、どんな風な表情を彼が自分に見せていたのかも。その全てを、ヴィヴィオには殆ど思い出す事が出来ない。ただそれでも、自分にとってクラナが本当に優しい人物だった事や、頼れる兄のような人物だった事は、うっすらとだが覚えていた。クラナに対する記憶が消えている事で、六課に居たころの殆どの記憶が無いのも、自分が殆ど四六時中クラナと一緒に居たせいだと思う。
だから、もうずっと前からヴィヴィオは、その記憶が戻る事を願っていたのだ。
自分にとっての兄が本当は一体どんな人で、まだ表情を持っていた兄の顔が思い出せれば、今は分からなくなってしまった兄との接し方のヒントになるかも知れない。そう小さな希望を抱いて。
……そうしてようやく今日、その願いが叶った。
確かに、ヴィヴィオの望んだ物は、その中に有った。
本当に優しかった兄も、楽しかった思い出も。ヴィヴィオの心は、確かに記憶していたのだ。その先に有る……クラナの血でベットリと赤く汚れた、彼女自身の掌の記憶と共に。

────

「ん……」
少し気だるげな声と共に、ヴィヴィオは眼を覚ました。
天井が見慣れない場所だったので、一瞬此処が何処なのか分からなくなったが、すぐに察しが付いた。合宿所の、ロッジの中だ。何故自分はこんな所で寝ているのか……確か、今日は陸戦試合をしていた筈……

「ッ……」
其処まで考えて、ヴィヴィオは下腹部に一瞬だけ小さな痛みが走ったのを感じ取る。
其れによって、彼女の記憶が覚えている最期の部分へと結びついた。


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