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渦巻く滄海 紅き空 【上】
七十一 月の砂漠
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気づかなかった。




目覚めたアマルの顔に広がったのが…――――
――――――深い、失望の色だったなどと……。




















月は相変わらず美しかった。

洞穴から出て、真っ先に注がれる月光。複雑な心境に反して変わらぬ月の皓々たる様に、彼は思わず吐息を零した。

振り返ると、先ほどまでいた洞窟は既に塞がれている。岩壁には、最初から嵌っていたかのように奇岩がしっくり馴染んでおり、その前には唐紅の社が何事もなかったかのように鎮座していた。

清冽な渓流の上。切り立った崖と崖の合間で夜空を仰いでいた彼は、やにわに跳躍した。


瞬く間に谷底から脱す。崖上の土を踏み締めるや否や、視界に飛び込んだのは暗い森。風に靡く草は青々と茂っているが、この闇では黒々と蠢いているようにしか見えない。

鬱蒼とした木立を暫し歩くと、急にぽっかりと森が開けた。


月光に照らされ、キラキラと輝く。次いで目前に広がった砂漠は背後の森に反して明るく、明暗がくっきりと区切られる。
見渡す限りの砂海と暗澹たる森の狭間にて、彼は再び空を見上げた。一面に瞬く星々を眺め、おもむろに口を開く。

「いるんだろ」


呼び掛ける。確信めいた声は、背後の闇に吸い込まれてゆく。明るい砂漠の反面、影を成す森は陰鬱な印象を漂わせている。
深閑とした森は寝静まっているのか動物の鳴き声すら微塵もしない。ましてや人の気配など…―――。


その瞬間までは。




突如、森から聞こえる足音。
徐々に此方へ近づいて来る気配に、彼――ナルトは動揺一つしなかった。唐突な相手の出現に驚く素振りもなく、むしろ最初から知っていたかのような風情で待つ。


ややあって森の暗がりから、男が一人、ぬっと姿を現した。

木々の陰に潜んでいるのか、その身はほとんど見えない。更には顔を覆う仮面が男の正体を厳密に隠している。
しかしながら男の様子をちらりと横目で窺ったナルトは、一目で何があったのか把握した。

「手酷くやられたな」
「…………」
無言の返答。だが確かに苦痛が滲むその声音に、ナルトは小さく溜息をつく。
そして俄かに懐から小瓶を取り出し、振り返らぬまま後ろへ投げた。背後で相手が受け取ったのを察してから忠告する。

「火傷に効く薬だ。あいつの【天照】はしつこいぞ」
「…よく知っているな。流石、イタチの相棒だ」
くぐもった声。
だがその声音から垣間見える隠微な皮肉の色に、ナルトは眉を顰めた。

「元、だ。今は違う」
「それでもお前は『暁』だ。先ほどペインに告げた言葉は嘘じゃないだろう?」
相手の反論に益々眉間に皺を刻ませる。そこで彼は仕返しとばかりに厳し
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