4部分:第四章
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第四章
「その歌を是非」
「聴かせて」
「ええ、わかったわ」
二人の言葉を受けてだ。いよいよだった。
指揮者の席には夫がいる。彼も指揮棒を持っていた。
いよいよ歌の準備がはじまる。そしてだった。伴奏がはじまった。
その伴奏を聴いてだ。皆驚きを隠せなかった。
「んっ、この曲は」
「まさか」
「あれか?」
「あの曲か?」
観客達もその曲が何かわかった。それはだ。
「ホーム=スウィート=ホーム」
「民謡か」
「それにしたのか」
「まさか。この曲なんて」
その曲になったことにだ。誰もが驚きを隠せなかった。
実は彼等はだ。こんなことを考えていたのである。
「ランメルモールのルチアだと思ったのにな」
「いや、ノルマだろ」
「清教徒じゃないのか?」
「いや、ラクメに決まってる」
どれも彼女が得意としていた役があるオペラである。彼女はその高音、コロトゥーラの技術が完璧なことで知られていたのである。
それでそうした役だと考えられていた。しかしなのだった。
その民謡だった。皆このことに驚きを隠せなかった。
だが、だった。驚きは一瞬のことでだ。皆言うのだった。
「けれどな」
「そうだよな」
「あの人らしいな」
「そうだよな」
納得しだしたのだった。
「あの穏やかな曲でな」
「それでいいよな」
「似合ってるよな」
「あの人に相応しい」
彼女の人柄は知られていた。だからその人柄と合わせて考えられてだ。それで納得したのである。そして納得したならばだ。
後は聴くだけだった。その曲をだ。彼女はゆっくりと歌いはじめたのだった。
曲は進み歌っていく。そしてであった。
彼女は万感の思いを込めて歌っていく。歌うと共にこれまでの、歌手として、そして幼い頃より歌ってきた記憶も思い出していた。そしてだ。
その記憶の中にありながら歌い。そして最後にだった。
歌い終えるとだ。全てが止まった。時が止まったのだった。
彼女はその場に立っていた。そして動かなかった。そこにだ。
「ブラボーーーーーーーーーーー!!」
「最高の歌だったよ!」
「最後にその歌を有り難う!」
「貴女のことは忘れないからね!」
拍手と歓声がオペラハウスを支配した。誰もが彼女に温かい声をかける。
彼女は涙を流しながらその拍手と歓声を受けていた。そしてだ。
舞台にだ。今ネオンが輝いた。その文字は。
『GOOD BY』
この文字だった。この文字がネオンに輝いてだった。彼女に別れを告げるのだった。
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