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第一章
ホーム=スウィート=ホーム
「本当にそれで宜しいのですね」
「はい」
大柄な女性がだ。紳士の言葉に応えていた。
「それで御願いします」
「わかりました。では最後の舞台はそれですね」
「こうもりを御願いします」
それだというのである。見れば茶色のカールさせてある長い髪に青い目をしている。顔は細長くそれでいて四角い感じである。頬骨が出ている。
彼女はだ。オペラ歌手である。この国を代表する歌手だ。
その彼女がだ。遂に引退する時になったのだ。還暦を優に超えてからだ。
そして最後の舞台にだ。その作品を選んだのである。
「それで」
「わかりました。それでなのですが」
「いえ、私はその舞台だけで」
「そうはいきません」
すぐにこう述べた紳士だった。
「せめて最後にです」
「最後に」
「一曲。特別に歌われてはどうでしょうか」
こう彼女に言うのだった。
「そうされてはどうでしょうか」
「一曲ですか」
「はい、どうでしょうか」
「一曲といいますと」
「今まで色々な歌を歌ってこられましたね」
「はい」
これはその通りだ。オペラ歌手としてだ。本当に色々な役を演じ色々な歌を歌ってきた。オペラの歌だけではなく賛美歌や民謡もだ。実に多く歌ってきた。
それを言われてだ。彼女もこくりと頷いたのであった。
「その通りです」
「ではその中から何か一曲」
紳士はまた述べてきた。
「何を選ばれますか」
「そうですね、ここは」
「はい、どの曲を」
「少し選ばせて下さい」
今はこう言うだけだった。
「少し」
「そうされますか」
「まだ時間はありますね」
「はい」
紳士も答える。その通りだというのである。
「それは御安心下さい」
「はい、それでは」
「既にその舞台の場所も決まっていますし」
「ロンドンですね」
「ロンドンロイヤルオペラです」
イギリスで有名なオペラハウスの一つだ。イギリスも有名なオペラ歌手や指揮者を多く出しているのである。それはイギリス連邦の国でも同じだ。彼女にしてもオーストラリア人である。
「そこで」
「そうでしたね。そこで」
「ではその時まで考えておいて下さい」
「はい」
こうしたやり取りの後で自宅に帰る。そこはシドニーの丘の上にあるプールのある屋敷だった。そこには至るところに刺繍がある。
そこに彼女の名前のイニシャルがある。そしてだ。
眼鏡をかけて穏やかな顔の、彼女より幾つか年下と見られる男が彼女の前に来てだ。穏やかな声で彼女に言ってきたのだった。
「おかえり」
「ええ、只今」
「あの話だね」
彼はこう彼女に切り出してきた。
「そうだね」
「ええ、最後の舞台だけれど」
「それで話は決ま
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