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その一手を紡いでいげば
和谷
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ゃからの。もし緒方君がTorajirouのことを知ったら、間もなく始まる本因坊戦に集中できるか見物よ」

 桑原は人の悪そうな笑みを浮かべた。その横で佐為が、まっすぐなヒカルが懐かしいですと嘆き始めた……。

◇◆◇◆◇◆◇◆

 Torajirouが意味深な発言を残して消えた後、和谷はTorajirouの数少ない対局を徹夜で検討した。そして、眠気を振り払って進藤に電話して自宅に呼び出す。

「はあ? 強いじゃろ、わしだって? 和谷は負けたんだ」

 和谷のネット碁の対局相手が秀策風の打ち筋で佐為並に強いと聞いて、真っ青な顔で駆けつけてきた進藤は、和谷の話に気の抜けた声で応えて大声で笑い始めた。

 自分を差し押いてネット碁をするくらい佐為が何かに怒っている可能性を想像して、進藤は不満や不安、恐れの感情にさいなまれた。だが、およそ佐為に似つかわしくない言葉を聞き、妙な安堵感に包まれた進藤は、笑いのタガが外れてしまった。

 無論、笑われた和谷の方は不機嫌になる。進藤が秀策フリークで有名な上、Saiと似ているから真っ先に知らせてやったのに、話の始まりでこの扱いでは当然かもしれない。

「進藤には俺がSaiと初めて打った時の話を聞かせたよな。あの時Saiは、強いだろオレ、って応えてくれたんだ。この書き込みの内容と似ていると思わないか」

「でも和谷って、それをあちこちで言いふらしてただろ。緒方さんあたりが和谷をからかおうと、なりすましてんじゃねーか」

「なんで現役のトップ棋士が俺をからかうんだ。それより、真面目な推理を思いついたんだ」

「へー、何?」

「驚くなよ。最初の……強いだろオレ……発言は院生を名乗った俺に、自分を子どもと思わせるためのもの。その実は塔谷名人みたいに引退した元トップ棋士であり、子ども並に時間もたっぷりあるってわけだ」

「はあ、佐為が引退したトップ棋士?」

 進藤は再び笑い声を上げた。

「だから笑うな、今からTorajirouとの対局を並べてやるから」

 そう言ってから、和谷は碁石を並べていく。すると、進藤の笑いはみるみると小さくなっていき、いつの間にか真剣な表情で碁盤を見つめていた。

「まさか、佐為?」

「やっぱり進藤もそう思うか。俺が驚いたのもわかるだろ」

 ようやく我が意を得たりと和谷が嬉しそうになる。進藤みたいな碁馬鹿には言葉より碁で見せる重要性を、和谷は改めて認識した。

「Saiの棋譜は他にもあるの」

「ある。って、まだSaiと決まったわけではないだろ。それに、お前、寝不足の俺より顔色が悪いぞ? 休んだらどうだ」

 和谷は進藤のただならない様子にTorajirouのことを教えたことをちょっぴり後悔し始めたが、進藤に「棋譜」と言われてToraJirouの対局を慌ててパソコンに出した。

 その後、徹夜の疲れで
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