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悪役スター
第五章

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 彼は特撮番組の悪役も演じていった、常に子供達からの熱いエールが出てそれに喜ぶのだった。そうした仕事を数年続けていると。
 ある日だ、街を歩いていると高校生と思われる若者に声をかけられた、それでまずは頭を下げられてこう言われた。
「あの時はすいません」
「あれっ、俺君に何かされたかな」
「覚えてません?俺貴方蹴ったんですよ」
「ああ、あの時か」
 言われて思い出した秋山だった、大佐を演じていた時に男の子に蹴られたことを。
「あの時俺を蹴った子供が君なんだ」
「はい、そうなんです」
「覚えてるよ。けれど大きくなったね」
「すいません、あの時は大佐が憎くて」
「そんなに憎かったんだね」
「ライダーをいつも苦しめてましたから」
 だからだ、憎かったというのだ。
「それでなんです」
「俺を蹴ったんだね」
「本当にすいません」 
 何度も頭を下げる若者だった、申し訳なさそうに。
「子供でした」
「いや、いいよ」
 秋山は温厚な笑顔で若者に返した。
「むしろね」
「むしろ?」
「蹴られて嬉しかったよ」
 その時に思ったことをそのまま言う秋山だった。
「あの時はね」
「蹴られてもですか」
「そうだよ、だって子供達に憎まれていることはね」
「それがですか」
「悪役として冥利に尽きるからね」
 だからだというのだ。
「とても嬉しかったんだ」
「そうだったんですか」
「今も悪役をやってるけれどね」
 勿論特撮の悪役もだ。
「楽しくやっているよ」
「あの時の俺みたいな馬鹿いませんか?」
「子供に憎まれて嫌われてこそだよ」
 それでこそだと言うのだった、あくまで。
「悪役じゃないか」
「だからいいんですね」
「そうだよ、俺はこれからも子供達に憎まれて嫌われるから」
「そうですか、それじゃあ」
「君が結婚して子供が出来たら」 
 その時はというのだ、その子供に。
「俺を見せてくれるから」
「テレビで出ている秋山さんをですね」
「そう、そして思いきり憎ませてくれるかな」
「わかりました、それじゃあ」
「うん、親子二代で蹴って欲しいね」
 悪役としてだというのだ、こうあの時の子供に話すのだった。そのうえで今も事務所に大量に届いている子供達からの熱いエールに目を細めさせるのだった。


悪役スター   完


                     2014・1・21
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