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女房の徳
第二章
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第二章

「同じですがな」
「病気のと」
「それが違うんですわ」
 彼は笑ってそう返す。
「おなごの心を見よと言うんですわ」
「おなごのですか」
「そうですわ。やっぱりあれですがな」
 ここであらためて述べる。
「男にしろおなごにしろ心根が大事ですわな」
「確かに」
「それは言えますな」
 客達もその言葉に頷く。これは言うまでもないことだ。どれだけ美人でも心根というものは出て来るものである。それが醜ければどんな奇麗な女でも何の意味もないものだ。
「そうですさかいそうしたおなごには近寄るなと」
「成程」
「さもないと破滅するとまで言われていますのや」
「それはありますな」
 客の一人がまたそれに頷いた。彼は湯葉を食べている。
「あれでっせ。おなごは怖い」
 湯葉の黄色が青と白の皿の上にある。色もまた楽しませるものであった。そうしたところが実に京都らしかった。味もまた素材を生かしている。彼等はそれを楽しんで食べて飲んでいたのだ。本当の金持ちの遊びだと言えた。その中で言葉を続ける。
「怖いおなごは鬼ですわ」
「鬼ですか」
 もう一人の客がその言葉に顔を向ける。
「それはまた大袈裟ちゃいまっか」
「いや、うちのも言うてますわ」
 しかし菊五郎本人がここでこう言うのだった。
「女ってのは表の顔は仏さんでもほんまの顔は夜叉やと」
「夜叉でっか」
「それか般若ですかな」
 これは冗談めいた言葉であった。しかし般若という言葉は実にわかりやすかった。脳での般若の面がすぐに頭に出て来るからだ。あれは人の怒りの心をそのまま現わしていると言われている。だからこそ非常に恐ろしいものがあるのだ。
「どっちにしろ怖いものであると。言われてますわ」
「じゃああれでんな」
 客の一人がまた笑って言ってきた。
「タチの悪い女には手を出すなと」
「そういうことですわ」
「いやいや、全く以って」
 客達は感心することしきりであった。そうして言うのだった。
「よくできた奥さんで」
「前田さんは羨ましいですわ」
「ははは、そうでっしゃろ」
 菊五郎も上機嫌でそれに返す。彼もその言葉がまんざらではにようである。
「わては全く以って幸せモンですわ」
「ほなもう一杯」
「じゃあ」
 そんな話をしながら酒と料理を楽しんでいた。確かにサトは彼にとって過ぎた女房であった。しかも気立てがよくて優しい。ところがそればかりではないのだ。
 女は外では笑っていても内では怒っていたり警戒していたりする。菊五郎もそれはわかっているつもりであったがそれでもそれをはっきりとわかっていたわけではない。それがわかったのはある事件からであった。その事件は菊五郎にとっては忘れられないものであった。
 その女遊びをしていた時だ。彼は遊郭通いを楽
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