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菊と薔薇
6部分:第六章
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第六章

「仕方ありませんわね。ですが泣きはしません」
「はい、それは私も」
 これは二人共同じだった。
「別れはまた新たな出会いのはじまりですから」
「再会への喜びの」
「ですから。また」
「はい、また」
 二人で言い合うのだった。
「御会いしましょう。何処かで」
「その時を楽しみにして」
「それでです」
 ここで朱雀はアンにあるものを差し出したのだった。それは。
「これは」
「菊ですの」
 黄色い菊だった。ただしそれは本物ではなくブローチの菊だった。黄色くつつましやかに咲いていた。
「これをアン様に」
「確か日本のお花でしたね」
「そうです」 
 微笑んで彼女に述べた。
「これをどうぞ。再会を御祈りして」
「それでしたら私も」
 それを受けて彼女もあるものを朱雀に差し出してきた。それは美しい白い薔薇のブローチだった。彼女がいつも着けているものであった。
「これを」
「私にですか」
「そうです。私もまた再会を御祈りして」
 アンもまた微笑んで朱雀に対して述べるのだった。
「どうぞ」
「有り難うございます。それではまた」
「御会いしましょう」
 こう言い合って笑顔で別れたのだった。二人はそれ以降会うことはなかった。そして時代は移り変わりまず欧州で大きな戦争があった。それが終わってから二十年程経ちまた戦争になった。今度は日本と英吉利が戦うことになった。
 日本では開戦やむなしの意見が圧倒的だった。それは仕方のないことだった。この時既にある財閥の当主の下に嫁いでいた朱雀もそのこと自体は支持していた。しかしであった。
「私は。それでも」
「英吉利のことがですか」
「はい」
 悲しい声であの時から一緒の執事に対して答えるのだった。もう二人共あの頃からかなりの歳月を生きているが面影はそのままだった。とりわけ朱雀の顔は皺こそあったがそれでも少女の頃の面影をそのまま残していた。
「アン様の祖国と」
「ですが今は」
「それはわかっています」
 日本が今どういった状況なのか。彼女も知らないわけではなかった。誰もがこの戦争は避けられないものだと覚悟を決めていたのだ。彼女もまた同じだった。
「仕方ないのですね」
「そうです。今は」
「わかってはいます」
 朱雀はまた言った。
「わかってはいます。けれど」
「アン様はどう思っておられるでしょうか」
「わかりません。ただ」
「ただ?」
「ペンを持って来て下さい」
 こう執事に対して言うのだった。
「ペンを」
「ペンをですか」
「そして菊を」
 次に持って来るように告げたのはこれであった。
「菊を御願いします」
「菊をですか」
「そうです、菊をです」
 執事にあくまで菊を持って来るように言うのだった。執事もそれに応えてそ
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