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東方攻勢録
第三話
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始める。このとき妹紅はまた平和な日々が続くものだろうと思っていた。
 そして……その時が来たのはそこから二・三時間後の話だった。

「さて、少し休憩するか」
「うん」
 二人はまるでぽっかりと空いた穴のような広場に着くと、近くにあった手頃な石を椅子代わりにして腰を下ろした。妹紅は葉っぱで作った包み紙を取り出すと、昨日の残りだった焼き魚残りを二人でわけながら食べ始めた。
「今日もだいぶ歩いたな……」
「そうだね。まだ動物とか川は見つかってないけどね」
 この日は珍しく食料を確保できる場面がまだ現れていなかった。いつもなら一時間ほど歩くと野兎の一匹や二匹は目につくはずなのだが、今日は鳥が飛び立つ音すら聞いていない。妹紅はそんな状況をすこし不気味に感じていた。
「ふみ江……少ししたらすぐに出発しよう」
「どうして?」
「いや……何となくだよ」
 妹紅は何となくと言ったが、実はちゃんとした理由があっての提案だった。妹紅はふみ江に会うまでの生活から大体の事は推測できるようになっている。今回は野生の動物が一匹も見えないどころか鳴き声すらしていない。妹紅はそれを妖怪が食べつくしているからと考えていた。
 そしてその予想は的中することとなる。
「……うん。じゃあそうしよっか」
「ああ。このままなにもなけ――」
 妹紅がしゃべっていると、突然背後から茂みがゆれる……いや踏みつぶされるような音が響き始めた。
 妹紅はふみ江をかばうように立つと、音のする方をじっと睨みつける。ふみ江もただならぬ何かを感じ少し怯えているようだった。
「いいかふみ江、絶対に前にでてくるんじゃねえぞ」
「う……うん」
 音は徐々に近づいてくる。それと同時に黒いシルエットがうっすらと現れ始めていた。シルエットからは長い胴体と何十本もの足、顔らしい場所から二つの長い爪のような物が確認できる。妖怪であることに間違いない。
 そしてシルエットだった妖怪はゆっくりと姿を現した。
「えっ……」
「ムカデ……?」
 現れたのは巨大なムカデだった。長い爪のように見えた者はムカデの特徴でもある顎肢のようだ。しかしその部分は刃物のように鋭利と化しており、噛んで毒を注入するというよりかは切り落とすものになっている。あんなもので噛まれれば胴体が引きちぎられてしまうだろう。
 大ムカデはこちらの存在を確認すると、顎肢を使ってこちらを威嚇し始める。完全にこちらを食料として見ているようだ
「ちっ!」
 妹紅はいきなり走り始めると、一気に大ムカデとの距離を詰める。大ムカデは接近してくる妹紅をとらえると、体全体を使って妹紅に顎肢を突き刺そうとしはじめた。だが妹紅はその攻撃を簡単によけると、相手の長い胴体を思いっきり蹴り飛ばす。大ムカデは大きな衝撃に耐えながらも、奇妙な声をあげていた。
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