暁 〜小説投稿サイト〜
少年少女の戦極時代U
オリジナル/未来パラレル編
第20分節 虎が雨
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 “もう…っ、片方の手もっ、出せ! 凌馬!”
 “――貴虎”


 ――その時の凌馬の表情を、貴虎は一生忘れない。


 “ねえ、貴虎。私はね、キミのことが結構スキだったんだよ。私だけじゃなくて、湊君もシドもね”


 凌馬は普段の他愛ないおしゃべりと変わらない笑顔で、貴虎の手を振り解いた。


 “がんばりたまえよ、リーダー”


 こうして貴虎は同志を全員喪い、孤立した。



……

…………

(下らない感傷に過ぎないのに。俺はここを離れられないでいる。いや、縛られている、のか。いつ崩れ去るともしれないこの場所に)

 貴虎はオフィスチェアに深く腰かけ、目を細めて思い返した。

 ――あの後、プロジェクトアークの準備段階、つまり人口調整の計画がどこからか世界中に公開され(どこからか、と言ったが貴虎はおそらく光実だろうと睨んでいる)、ユグドラシル・コーポレーションの権威は地に堕ちた。
 秘密が秘密でなくなったことで、スカラー装置も出番を失った。
 プロジェクトアークのために必要な、ドライバーの量産も、人口調整も、その半分も行えないままで終わった。

(だというのに、俺は安心している。人類を救うという目的を、奪われ壊されることで解放された気になっている。つくづく俺はどうしようもない男だ)

 今やユグドラシル・コーポレーションは発足当時の、ただのヘルヘイム研究組織へと回帰しつつあり。
 呉島貴虎は、この沢芽市に数多いるアーマードライダーの一人に過ぎなくなっていた。
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