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妾の子
第八章
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第八章

「その人に教えてもらったのよ」
「その人になのね」
「ええ」
 また娘に対して頷いて答えた。
「それでひいお爺ちゃんとひいお婆ちゃんが結婚できて今お母さんと佳代子もここにいるのよ」
「そうだったんだ」
「だから。佳代子も覚えておいて」
「人の心を見ること?」
「そうよ。大人になったらわかるけれど」
 お母さんの言葉が真面目なものになる。
「人はね、心以外にも一杯色々なものが付くから」
「御顔とか?」
「それだけじゃないわ」
 先程も出たことだがそれでもあえて佳代子に教えるのであった。
「他のことも。その」
「生まれや立場とか?」
「他にも一杯あるわ。確かにそういうのはあるわ」
 これは認めるのだった。
「けれど。見なくちゃいけないのはまず」
「心なのね」
「だからひいお爺ちゃんとひいお婆ちゃんは結婚できてお母さんと佳代子がいるから」
「だからなのね」
「そう、大切なのは心」
 くどいまでに娘に告げる。
「それだけh。覚えておいてね」
「うん」
「わかってくれたらじゃあ」
 穏やかな微笑みになってまた娘に告げたのであった。
「おやつにしましょう」
「今日のおやつは何?」
「お饅頭よ」
 娘に笑って教えた。
「お母さんがお婆ちゃんに教えてもらったお饅頭よ」
「ひいお婆ちゃんが教えてくれたのね」
「ええ、そうよ」
 そうなのだった。お菓子にしろ伝えられるものであった。今お母さんはそのことも佳代子に対して教えていたのである。お菓子一つ取っても。
「これもそうなのよ」
「そうなの。ところで」
「何?」
「ひいお婆ちゃんのお母さんがひいお婆ちゃんに教えてくれたのね」
「そうよ」
 このこともまた佳代子に答えたのだった。
「お母さんにとってのひいお婆ちゃんがね。お母さんが生まれる前に死んでしまったけれど」
「もういないんだ」
「いないけれど言葉は生きてるわ」
 こう娘に答えるのであった。
「だから同じなのよ」
「同じなの」
「人は死んでもその心や言葉は生きるのよ」
 教えることがまたあったのだった。
「それも覚えておいてね」
「うん。それでね」 
 それも聞いたうえでまたお母さんに尋ねる佳代子であった。
「そのひいお婆ちゃんのお母さんの名前は何ていうの?」
「確かセツっていったわ」
「セツさんなのね」
「そう、脇田セツ」
 また名字まで娘に教えたのであった。
「写真は。ええと」
「あの人?」
 佳代子が壁のある一点を指差した。そこには和服を着た如何にも生真面目そうな女の人が毅然とした顔でそこにいたのであった。
「あの人かしら」
「そう、あの人よ」
 お母さんは佳代子の今の言葉に頷いた。
「あの人。あの人がひいお婆ちゃんのお母さんよ
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