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少年少女の戦極時代U
ヘルヘイム編
第16話 ディーラーとお嬢様
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の力がなくとも、こんな小さな生き物は、引きずり倒して首に少し体重を乗せればすぐ絶命する。

 すると、碧沙はシドの頭上に回り込んだ。訝っていると、碧沙はシドのコートを両手でふん掴んだ。

「ぃ、でぇ!」

 碧沙は掴んだコートの肩口を力一杯引っ張り、何かの上にシドの頭を乗せた。

 碧沙がシドを膝枕したのだ。

 展開に付いて行けないシドに一瞥もなく、碧沙はどこかに電話をかけ始めた。

「もしもし。わたしです、碧沙です。――。はい、車を一台回していただきたいんです。場所は――」

 碧沙は通話を切ると、スマートホンを路上に適当に転がした。

「どういう、つもりだ」
呉島(うち)の車を呼びました。その車で休んでください。自然に治るんでも、こんな道ばたに転がってるよりマシだと思います。車が着くまでは、わたし、ここを、はなれませんから」

 つまり、その車とやらが着くまでは、シドの頭はこの小娘の膝の上。

「俺たちが何してんのか知らねえのか」

 おそらく碧沙はスカラーシステムやプロジェクトアークについては知らない。シドが街を命運を握ってひた隠しにし、人類の”選別”を目論む連中の一人だとは、知らない。

 でなければ、こうして無防備に膝を貸せるわけがない。
 知らない、とはこんなにもおかしな状況を生み出すものかと、シドは皮肉に笑った。

「何をされてる方でも、今は息もたえだえのケガ人です。だからケガ人にすべきだと思うことをします。あなたがだれと、どんな理由で戦ったんだとしても」
「……、そうかよ――」

 シドは帽子をずらして表情を隠した。貴虎の妹とはいえこんな小娘に、今の自分がどんな顔をしているかなど知られたくなかった。
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