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僥倖か運命か
第八章
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れる一塁側スタンド。第三戦にしてのようやくのミサイル打線爆発であった。
「よし、あと一点で勝てるぞ!」
 西本は選手達に言った。こうした時彼は選手達に暗示をかけるのが上手い。これが名伯楽と呼ばれた所以でもある。
 そう、あと一点で勝てるのである。大毎は。しかしそれは大洋にとっても同じであった。
 九回になった。まずはワンアウト。打順は一番の近藤昭仁に回ってきた。
 近藤はバットを振り打席に入ろうとする。
「おい」
 その彼を呼ぶ男がいた。
「監督・・・・・・」
 近藤は彼を見て言った。三原が彼を自分の方に呼び寄せたのだ。
「近藤」
 三原は静かに彼の名を呼んだ。そして彼の耳元に顔を近付けた。
「君はリズムに乗っている。思い切って振ってみろ」
 この二人は同郷出身である。場所は高松。だからこそ何か通じるものがあったのかもしれない。
 三原はここで近藤がリズムにに乗っていると言った。だが実はそうでもなかった。第一戦では無安打、第二戦は四打数一安打。この試合も今までノーヒットである。こうして見ると不調と言っていいだろう。
 だが三原は第二戦の唯一のヒットを指してそう言ったのであった。あの試合の七回裏チャンスを繋ぎ鈴木武の決勝打を呼んだヒット。それを指していたのだ。
 近藤はその言葉に乗った。その気になったのだ。そして胸を張りバッターボックスへ向かう。
 大毎のピッチャーは六人目、第一戦で先発した中西である。彼はの武器は何と言ってもその速球だ。
 近藤はその速球に狙いを定めた。そしてそれを待つ。
 二球目にそれは来た。高めに入って来る。
「今だっ!」
 近藤はそれを振り抜いた。ボールは高々と舞い上がった。
「あ・・・・・・」
 ネット裏で観戦していた永田は思わず声をあげた。それまで時折法華経を漏らしていた彼の口が止まった。それは絶望的な声であった。

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