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第一章 〜囚われの少女〜
死刑執行人
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 死刑執行人。人はその存在を忌み嫌い、大衆はその役を他人に押し付けた。それにもかかわらず大衆は、その人物を必要悪とし、『罪人殺し』の罪を着せた。
 実際にはその人物が“罪”に問われることはない。罪というものを決めるのは王であり、王宮に使える者として、命令に従っているだけであるのだから。
 だが、罪人であっても人を殺すのだ。
 人は人を殺す時、殺される人物と同等の苦しみを得てしまう。ただし、例外は除いておく。
 “罪を犯した人間を罰する”仕事として、好き好んでしているわけではない。民からそれを押し付けられ、蔑まれ。それでもその人物は、日の当たらない場所で一生を過ごすのだった。

 広場の時計は、普通の人なら昼食を済ませ、小腹が空いてくるその時を指していた。
 春の終わり頃のような、まだ初夏とも言えない頃のような。そんな柔らかい日差しの中。人々は心地よい気だるさを、街に漂う甘い香りとともに楽しんでいる。
 その中でも子供たちは、街の端から端へと走りゆく。走る事さえも彼らには楽しいのだろう。
 子供というのは正直だが、時に残酷だ。嫌いなものは正直に嫌いと言う。そういった対象があれば、大人の場合は極力近づかないように、出来るだけ遠ざけたいと思うものだ。
 子供たちは親から、その男――死刑執行人には決して近づいてはいけないと教えられる。しかしながら、禁止されるとかえってそれをしたくなるのが子供心というもの。そんないたずら心を持った、いわゆる悪童たちは興味があるのか、男を見かけると面白がったり罵ったりした。
「あいつ、あんな所にいるぞ!」
「あっ、ほんとだ!」
 この街には、仲良しの悪童二人組がいる。太り気味で肉付きがよく、おそらくは金持ちで、親も太っていると容易に伺えるのが一人。もう一人は正反対に華奢だが、鋭い目つきから、ずる賢い印象を受ける。
「行ってみようぜ」
一人が手招きで合図をすると、もう一人は悪戯心をくすぐられ、ニヤニヤしながら着いて行く。見つかることを全く気にしていないような忍び足で、二人の子供は男に近づく。後数歩ほどまでの距離に、男の背中があった。
 世間から隔絶された存在である男。黒づくめのその人物が、通りを虚ろな目つきで歩いている。
 二人組の悪戯心が頂点に達した頃、互いの顔を横目でニヤリと確認する。悪童はどちらからともなく一斉に、その背後へ石を投げつけた。
「人殺し!」
「人殺しだ!」
 黒い布に身を包んだ男は、返す言葉もなく背を向け、いっそう俯いてそこから去りゆく。その表情に映るのは、恨めしいような、悔しいような色。


――


 酒場は昼間から客で溢れかえっていた。
 町の中でも一番盛り上がっている、または浮かれていると言っていい場所だろう。
 毎年、姫の誕生記念酒が造られるほどで、そ
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