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東方虚空伝
第三章   [ 花 鳥 風 月 ]
三十四話 舞い降りる狂花
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 幽香に対し味方と名乗る鬼、百鬼丸は幽香の訝しむ様な視線を気にもせず言葉を続ける。

「お前の妹達を(かどわ)かした人間がどうやら七枷の神共にお前の討伐を懇願しているらしいぞ」

 百鬼丸の台詞に幽香は若干表情を歪めたが平静を取り持ちつつ問い返した。

「…意味が分からないわね。何故私が討伐なんてされなきゃいけないのかしら?それにあの子達を攫う理由もないわ」

 幽香の発言に百鬼丸は表情を変える事も無く返答する。

「詳しい理由などは知らんが…心当たり位は在るんじゃないか?仕掛けられたとはいえ襲ってきた連中をお前は皆殺しにしているのだからな。神は人間の願いを聞く者だ、お前の行動だけを説明されれば凶悪な妖怪と認識するだろうさ。それにお前の妹達は希少な覚妖怪、特に人間達の間では良い商品になるらしいな。まぁその事は俺よりお前の方が詳しいだろう?」

 そう言われた幽香の脳裏にさとりとこいしの二人に初めて合った時の事が思い起こされる。あの二人が狙われやすい事も知っていた、だからこそ自分が守ると約束もしたのだ。それがこの様である、なんと間抜けな事か。

「七枷の神はあの大戦の中心だった戦神と祟神、そして祭神はかつて神狩などと言われた妖怪殺しだ。流石のお前でも抗しきれまい。先程も言ったが俺はお前の味方だ、望むのならば手を貸そう」

 百鬼丸はそう言うと右手を差し出してくる、が幽香の心は揺れていた。
 確かに七枷の神が噂通りの実力なら自分だけでは抗えない。自分が死ねばあの二人が再び道具として人間に扱われるだろう。この鬼の助力を得れば神共を討ち返しあの子達を救える。だが本当にこの鬼を信じてもいいのか?そんな疑念が(くすぶ)るのだ。
 幽香の様子に気付いた百鬼丸が口を開いた。

「信じる信じないはお前の自由だ。だが俺は鬼、“?”は付かん。どうする?」

 鬼は?を付かない、ある意味で言えば常識だ。百鬼丸の言葉を聞いて幽香の心は決まった。ゆっくりと右手を伸ばし、そしてしっかりと百鬼丸の手を取った。

「勘違いはしないでね、信用した訳じゃないわ只目的の為に貴方を利用するだけだから」

 握手を交わしながら幽香はそう言い放った。その言葉に百鬼丸は笑みを浮かべ「構わんよ」と一言口にする。
 幽香はその自分の行動が悪手である事に気付いていなかった。普段の冷静さがあれば気付いていただろう、この状況が不自然であると、展開の都合が良すぎると。

「…それじゃぁ風見幽香“七枷の郷をぶっ壊し”そして“お前の妹達を攫った七枷虚空をぶっ殺そうか”!」

 百鬼丸がそう叫んだ瞬間、幽香の右手首に金色の輪がはめられていた。




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