暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
OVA
〜慟哭と隔絶の狂想曲〜
静穏 Silent Beat
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いた。

辺りは完全に夜の帳が下り、底知れぬ闇が広がっている。そこかしこに生える発光するコケやキノコなどによって最低限の明度(ガンマ)は保たれているのだが、やっぱり夜は夜。暗いのには違いない。

そんな中、紅衣の少年は寝たままで右手を上げていた。その右手の手のひらはボロボロに焼け焦げ、ところどころ炭化していて、人差し指と中指は焼き切れていた。

心意攻撃のため、痛覚緩和(ペインアブゾーバ)は働いていない。そのため、純粋な痛みが彼の神経を苛んでいるはずなのだが、少年はそれでも平気そうに笑っていた。

少年の周囲には誰もいない。

どうやらあの心意攻撃は彼らにとっても割と最終兵器的な感じであったようで、それをレンが片手で逸らしたので引き際を察したようだった。さすがは《六王》の一角に連なる攻略ギルド。思わず拍手を送りたくなるような、一切の証拠も残さない鮮やかな撤退振りだった。

なので今、レンの周囲には誰もいない。夜闇の風が頬を撫でていき、聞こえなくなっていた虫達がオーケストラを奏で始める。

ああ、とレンは呟いた。

やっぱりこの世界は綺麗だ。

生と死

時間と空間

殺人者と一般人

本来、そこまで重なり合うことのないもの同士が、この巨大な城の中で幾つも邂逅し、そして開放されていく。ある者は悲しみに暮れ、ある者は戦友に背を任せ、またある者は…………狂気に身を委ねる。それらが重なり、超克し合い、最高に荘厳な《歌》を作り上げていく。

だからこそ、この世界は美しい。

少年はごっそり減ったHPを回復するために、腰に据えられているポーチを開けた。そこに常備してある回復ポーションを手に取り、それを煽る。微妙な味に顔を軽くしかめ、飲み終わったビンをそこらに適当に放った。遠くで、カシャアァンというポリゴンの破砕する音が響く。

ついでにポーチの中を手探りし、ぼんやりとした思考を胸中で呟いた。

―――状態異常回復ポーションのストックがもうなかったっけ。どこかで買わないとなぁ。

はぁ、とため息をつく。

どうも人目につく場所は苦手になりつつある傾向になっている気がする。

まぁ、それもこれも身から出た錆。あれだけ(レッド)を殺しまくっていれば、周りの人々が離れていくのは当たり前かもしれない。

人を殺した人は、その瞬間から《化け物》に変わる。人は、自分とは違うものとの間に本能的に《壁》を作ってしまう生物だ。どんなに愛した愛玩犬であっても、命を賭してまで助けたいという人は少数派であろう。

だからこそ、レンは人と馴れ合いたくない。

いや、人の方から馴れ合ってこない。伸ばした手を取ってくれる人など、誰もいないのだ。

「…………………………」

一瞬、脳裏に浮かんだ従姉の顔。
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