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魔導兵 人間編
闇の死者
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左霧は小部屋の扉を勢いよく開けた。生徒が一人いる。雪ノ宮雪子だ。少女は腰が抜けたのか、ガタガタと体を震わせながら壁に張り付いている。見たところどこにも怪我はない。左霧は胸をなで下ろした。

「んぁ? もーひとりいたのかぁ? 今日は大量だぜ! さっさと魂捕まえてクソ上司に報告だあ!」

 人目見ただけで異様な気配を持つ者が傍にいる。大きな鎌を担ぎ、鬼のような形相と逞しい肉体。背中には強靭な翼を持っている。神話にも、昔話にも、時を超えて現れる、空想上の怪物――そのはずだ。
 左霧は背中が凍りつくような感覚に襲われた。信じられない、まさか――――。

「あ、くま……」
「貴様……人間の分際で、俺様たち悪魔の名前を口にするんじゃねぇ! 劣等種が!!」
悪魔は苛立たしげに大きな鎌を振るい、その場の物を叩き壊す。その音に、雪子は更に怯えてしまったようだ。圧倒的な膂力で全てを破壊する使者が今、目の前にいるのだ。

「いやぁ〜昔に販売中止になったはずの本がまだあったなんてなぁ〜ラッキーだわぁ〜。しかも女なんて嬉しすぎる! 何発かヤったあとにぶち殺し決定! ついてるわ〜」

 本?……。左霧は目の前に落ちている本を手に取る。

「魔道書? いや……これは」

 その本の表紙は確かに魔道書だった。しかし内容は全てデタラメ。用法や場所、呪いに関するあらゆる内容がちぐはぐなのだ。とても魔道書と呼べるものではない。

「そいつはぁ悪魔の書って言ってなぁ〜数年? いや数百年? まぁいいか! とにかく悪辣な方法で魂を狩る連中が増えたってんで中止になっちゃったチョー便利な本なんだよ! なんと、契約なしで魂を狩れるんだぜ!? アクマにとっちゃこれほど便利な本はないってのによ〜!」
「契約なし……? どういうことだ……?」

 悪魔は不機嫌そうに鼻を鳴らし、億劫そうに説明をする。左霧は、その内容を聞き出しながら、雪子に近づくチャンスをうかがうことにした。

「だからぁ、お前ら劣等種の魂借り放題ってこと! 力もない知恵もない! 挙句に簡単に騙されるクソ種族! 俺らに蹂躙されるだけの可哀想なお前らのことだよ!」

 どうやら、何がしかの用途で魔道書を使用した雪子が、悪魔を呼び出してしまったらしい。それも礼儀作法も知らない暴漢のようなタチの悪い悪魔だ。

「あ、あ、せ、せ、んせ……」

 左霧を呼ぶ声は、怪物の鎌によって遮られた。首元に当てられた巨大な武器は、常人ではとても持つことなどできない。それだけでも彼が異質な存在なのだと確信させるには十分だ。
「おおっと動くなよ? これから俺とお楽しみなんだからよぉ? ほぉ〜人間にしてはなかなかいい女じゃねぇか? どうだぁ? 一緒に悪魔界に行かねぇか?」
「い、いや、いやぁ!」

 悪魔の顔
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