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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百四話 最高のカード
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た。ではこれで』
「ああ、御苦労だった」
スクリーンが切れるとトリューニヒトが溜息を吐いた。

「地球教か、嫌な事をするな」
「地球教とは限りません。現在同盟は帝国と協力体制を築きつつあります。その事に反対する人間が行った可能性も有るでしょう」
「主戦派だな」
トリューニヒトの口調は苦い。軍はシトレが掌握している。それを崩して自分達の意見を通そうとする勢力が背後に居たとしてもおかしくは無い。主戦派だけとは限らないだろう。

「どうする、拙い事態になった」
「このままでは和平は……」
レベロ、ホアンが不安そうな声を出した。二人ともトリューニヒトと俺を見ている。
「順当にいけば総司令官はビュコック元帥、ボロディン元帥のどちらかだが……」

トリューニヒトの語尾が消えた。無理もない、二人とも和平については何も知らない、それに政治的な駆け引きは不得手だろう。説明しても上手く行くかどうか……。已むを得んな、俺がやるしかない。
「私が軍を率いるしかないと思いますが」

俺を除く三人が顔を見合わせた。トリューニヒトが息を吐いてから言葉を出した。
「確かにそうだが、階級が……。せめて大将になっていれば……。新任の中将では難しいだろう。おまけに君は亡命者だ。参謀長はどうかな? 上にビュコック元帥かボロディン元帥を持ってくる」

今度は俺が息を吐いた。
「難しいですね、今度の戦いではかなり微妙な駆け引きが必要とされると思います。一々総司令官に伺いを立てるのは、……私が疲れてしまいますよ。出来れば全権が欲しいと思います」
「……」

トリューニヒトは無言だ。そうだよな、難しいよな、参謀長で我慢するか、そう思った時だった。ホアンが何時ものようにトボケタ口調で提案してきた。
「総司令官はシトレ元帥で良いんじゃないか」
「……」
「シトレ元帥がヴァレンシュタイン中将を総司令官代理に任命すれば」

一瞬だがまじまじとホアンの顔を見た。俺だけじゃない、トリューニヒトもレベロも見ている。
「駄目かね?」
「いや、何とも判断しかねるな。シトレ元帥と相談してみよう。まあ代理にするとしてもビュコック元帥、ボロディン元帥の同意は必要だろうな」

なんとかなるかな、ビュコックもボロディンも野心の強い人間じゃない。後はトリューニヒトに任せよう。それより気になるのはフォークだな、奴の背後に居るのが誰なのか……、地球教なら問題ないが軍内部の勢力だとするとシトレの後釜に立候補してくる可能性はある。かなり厄介な事態になるだろう。バグダッシュにも調査を依頼してみるか……。



宇宙歴 795年 11月 7日    第一特設艦隊旗艦 ハトホル   ミハマ・サアヤ



「そろそろ時間かな」
「そうですね、今十四時五十五分です」

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