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乱世の確率事象改変
裏の糸は知らぬ間に
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 袁紹軍が幽州への侵攻を開始するとの報告が入り、これから予定通り準備の為に行動を起こそうかと思っていた頃、袁術軍の総司令官である七乃は一人頭を悩ませていた。

「怪しい動きが無いのも変ですけど……これはこれで問題ですよねぇ」

 彼女の目の前には大量の書簡がうず高く積まれており、その中の一つの内容が現在の彼女の悩みの種であった。
 袁家の張り巡らせた情報網から齎されたそれに記されている事は『首輪付きの飼い猫』と同志である田豊が称している孫策の動向について。
 孫策は連合で手柄を上げる事も出来なかった為、未だ袁術軍の飼い猫として馬車馬の如く働かされているのだが、洛陽での一つの行動がこの地にまで影響を与えていた。
 先の反董卓連合に於いて連合側で大きく名が広まった人物は三人いる。
 徐晃、夏候惇、孫策。
 先の戦で有名なのは誰かと民に聞けば大抵が答えるのはその三人であった。
 洛陽での黒麒麟の活躍は今や大陸全土が知っていると言っても過言では無い美談であり、夏候惇と張遼の一騎打ちの様子は畏敬の念を込めて語られる逸話。それらには何も不思議な事は無い。
 孫策のそれは徐晃の名が広まれば広まる程に効果を表していた。
 曰く、孫呉の戦姫は黒麒麟と同じく大徳である、と。
 曹操も、劉備も、袁術も、袁紹も、公孫賛も、馬超も……他の軍の大将の誰しもが洛陽の煙を見ても突出などせずにいた。
 その中で一人、孫策だけが洛陽内部へと向かった事、そして早々と長老格の人間を抑えて噂を広めた事で名が売れた。
 ましてや、彼女が突入までに戦っていたのは絶対無敵とも言われていた飛将軍の部隊であり、敵の強大さも名が売れる為に功を奏していた。
 曹操軍の方が先に突入していたのだが、それでも軍の大将というのはそれを霞ませるだけの影響力があった。
 名が売れた事によって現在にどのような影響が出ているのか。
 袁術領の民の多くは袁家上層部の課した無茶な増税によって貧困に喘いでおり、人心が安定していない為にその不平不満の心は孫策に希望を向けてしまう。中立を貫いていた各地豪族も孫策を支持し始め、袁家側の豪族でさえも内密に媚を売っている。
 そして孫策自身が不満も言わずに仕事をこなして行く為に、どれだけ馬車馬の如く働かせようと逆にそれが人の心を打ってしまう。
 さすがの夕もここまでは予測出来ていなかった為に七乃が対応を行うしかないのだが……下手に手を打ってしまっては夕の計画が乱れてしまう為に放置する事しか出来ない。

「民の心は移ろうモノ。なら……大徳には大徳を、ですよね」

 思考を止めた七乃は大きくため息をついて報告の書簡を丸めて机の上に放り投げ、計画を進めれば抑え切れるだろう、と小さく部屋の中に言葉を零した。

「さっ、報告も全て確認したし……美羽様とお
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