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ランナーとの戦い
第八章

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第八章

 江夏はだ。一人マウンドを去り後は酒場に入った。そこには彼がいた。
「よおやったな」
「できるとは思いませんでした」
 微笑んでいる村山にだ。こう話したのである。
「あれは流石に」
「藤瀬との勝負に勝ったな」
 村山は微笑みのまま江夏に話した。
「あれはそうした勝負やったな」
「そうですな。近鉄、それに西本さんとの戦いでもありましたけれど」
「まずは藤瀬やった」
「ええ」
 その通りだとだ。村山の言葉に頷くのだった。
「やっぱりあいつですわ」
「目障りやったやろ」
 村山はこんなことも言ってきた。二人は既に酒に入っている。飲みながらのやり取りだった。
「ああいう奴は」
「ええ。あいつは特に」
「それで何とか勝ちたいって思ってたな」
「実際走られましたし」
 三試合目のことをだ。今も覚えていたのだ。
「それもありましたし」
「あれやな」
「あの時はしてやられたと思いました」
 江夏は村山に素直にその時の感情を放した。
「いや、本当に」
「けど御前は最後の最後でやったな」
「ええ、忘れてなかったさかい」
 それでだというのだ。あのスクイズの時はだ。
「勝ちました。絶対に勝ちたかったんですわ」
「よおやったわ」
「有り難うございます。ただ」
「ただ。今度は何や?」
「ピッチャーの勝負はバッターとだけやないですわ」
 江夏は振り返る顔で話した。
「やっぱり。そうした」
「ランナーとの勝負もやな」
「それがあらためてわかりましたわ」
「野球は奥が深いわ」
 村山も笑顔になり江夏の言葉に応えた。
「ほんまな。バッターとピッチャーやない」
「グラウンド全体でするもんですな」
 江夏は最後にこう言った。それをあらためてわかったシリーズであった。この年のシリーズは今では伝説になっている。その最後の戦いはこうした一幕もあったのである。


ランナーとの戦い   完


                2011・1・5

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