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渦巻く滄海 紅き空 【上】
二十一 権謀術数
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「まさかと思うが、侵入者を俺と彼女二人だけだとお考えか?」
意味ありげにナルトは答えた。あたかも自分の仲間が大勢いるかのような口振りで。実際は君麻呂、ただ一人だというのに。

ナルトが前もって君麻呂に頼んでいた事柄の一つは陽動作戦。砦を警備する空忍達の視線を、自分達から逸らす事。
そしてもう一つは要塞の重要な地点を抑える事にあった。君麻呂の第二の目的がそれである。
だが【念華微笑の術】で村人の行方が知れたナルトは、土壇場で考えをめぐらせ、今一度君麻呂に頼んだ。

「悪いが、この砦の要所は全て押さえさせてもらった。無論、監視室も制圧済みだ。それに、周囲の騒乱は貴方がたが拉致した村人の暴動も含まれる」
神農が信じられないと眼を大きく見開いた。それを尻目に、ナルトは淡々と語る。
「人は残酷な生き物だと言ったな。同意見だ。言葉は剣よりも鋭い――――人の口に戸は立てられず。いい噂より悪い噂の方が流されやすい。特に悪評には羽が生えてるからな。一度飛び立てば、たちまち広がる。そうなれば、世間は貴方の認識を改めざるを得なくなる」

この広間に入る直前に出したナルトの指示に、君麻呂は従った。牢に監禁されていた村人全員を解放する。
君麻呂の手によって自由の身となった彼らの耳朶に触れたのは、死んだはずの医師の声。
そして彼らは真実を知った。



「つまりここの会話は全部、筒抜けだったというわけだ」

そう結論づけたナルトを神農は呆然と見つめた。瞠目する彼の前で、ナルトはメスを石柱から引っこ抜く。微妙な力加減で無線機のスイッチを入れていたメスはあっさり抜けた。
「自分の得物が何処を刺したかぐらい把握しておくべきだよ」
さりげなく無線機を切ったナルトが軽く手首を捻る。彼の拳上で、神農の得物であるメスが銀の光を放ちながら飛び跳ねた。

悪事千里を走る。文字通り神農の悪事が、村人の口を通じて世間へと広まるだろう。村の罠に掛かり死んだと見せ掛ける演出。それを「最期を飾った」と神農はふざけて言った。
そして、今確かにこの瞬間を持って、善良な医者としての神農は死んだ。



「…この、クソガキ…ッ!!」
愕然としていた神農の顔が、見る見るうちに色をなした。今にも殺しかねまじき剣幕で、彼は歯軋りする。
自分は目前の少年に踊らされていたのだ、とようやく気がついたのだ。今現在、ナルトの拳の上で踊るメス同様に。
更にナルトはこの広間に足を踏み入れて以降、君麻呂・香燐、自身の名さえ口にしていない。仮に香燐がナルトを呼んでも、ダーリン呼びの彼女の場合それは無効になる。
彼は自分の名前すら明かさずに、神農の悪事を暴いてみせたのだ。全てはナルトの目論み通りに事が運んだのである。




既に無線機が切れたため、室内の会話は砦中に
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