暁 〜小説投稿サイト〜
誰が為に球は飛ぶ
夢のあとさき
参拾伍 一生分の夏
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芝に、ダイヤモンドとマウンドだけがアンツーカー。
甲子園とはまた違った趣が明治神宮球場にはある。

10月の下旬、その神宮球場の観客席最前列に真司は居た。一人でポツンと座っている真司に、グランドの方から声をかけてきたのは剣崎である。
白地に黒のストライプのユニフォームに身を包み、胸には「RIKKIO」のロゴ。
両手首には赤のリストバンドをつけ、スパイクが白というのが、また高校野球とは違った味わいを持たせている。
スコアボードに発表されたスターティングメンバーには、「3番ライト」に剣崎の名前があった。

「剣崎さん、お久しぶりです」

真司は立ち上がってペコリと頭を下げた。
すると、もう1人の選手が真司のもとに駆け寄ってくる。

「碇?碇だってェ!?」

剣崎と同じピンストライプのユニフォームに身を包んだこの選手は、リストバンドの色合いといい、帽子をとった頭の髪型といい、剣崎より随分と垢抜けていた。

「碇?この人覚えてるか?」
「もちろん。是礼の伊吹さんですよね?」

剣崎の隣に来た琢磨は、「その通り!」とおどけた顔で真司をビシッと指差した。
スコアボードには、琢磨の名前も「2番ショート」として表示されている。

「伊吹さん、母校がこの夏優勝されましたよね。おめでとうございます。伊吹さん自身もこの秋からレギュラーになるし…」
「おいおい、やけに褒めてくれるじゃねぇの。剣崎、ネルフって先輩へのおべっか教育してんの?」
「後輩の優勝はお前を褒めたんじゃないだろ」
「違いねぇな!」

3人の間に笑いが起こった。
昨年の夏を戦った剣崎と琢磨がこうやって今はチームメイトになっているのも、面白い所である。

真司の言った通り、今年の夏の埼玉を勝ち上がったのは是礼学館だった。そしてそのまま、是礼は全国の頂点に立った。昨年からレギュラーの主将・浦風が優勝インタビューで見せた涙は、熱闘甲子園のラストを飾った名シーンだった。
剣崎と琢磨は1年の秋から東京六大学リーグの古豪・律教大でレギュラーを奪った。2人ともリーグ戦終盤に入っても3割以上の打率をマークし、ベストナインも視野に入っている。

「いや〜、でもお前がちゃんとしてりゃあ、是礼の全国制覇も無かったかもしれねえのにな」
「いや、それは…」
「俺の今までの野球人生ん中で、1番速かったぜ?去年の決勝の最後の球。いや、マジで今やっても打てないと思うわ。そこらの真っ直ぐとは全然違うんだよな、何が違うのかわかんねぇんだけど!」
「……」

琢磨の賛辞に、真司の笑顔が微妙に翳る。

「碇、大学からの誘いは来てないのか?」
「いや、来てはいるんですけど…今の僕には勿体無いかなって……」

剣崎の問いにも、真司は今ひとつ煮え切らない。
そうしてるうち
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