暁 〜小説投稿サイト〜
最後の花向け
第四章
[1/2]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話

第四章

 両チームの選手達は球場に入りだ。それぞれ感慨を込めて話し合った。
「終わりやな、これで」
「親父グラウンドからいなくなるんやな」
「よお殴られたわ」
「けれど。誰よりもわし等見てくれた」
「そしてずっと見捨てんで教えてくれた」
「そうしてくれたわ」
 こう言ってだ。西本のことを思うのだった。
「ずっとな」
「あかんかったわし等を優勝させてくれた」
「ほんまに凄い人やった」
「けれど今日で終わりやな」
「ユニフォーム脱ぐんやな」
 近鉄の選手だけでなかった。阪急の選手達もだ。
 山田久志、今井雄太郎、福本豊、加藤秀司、大橋譲。阪急の主力選手達もだ。
 西本に見出され育てられてきた。その彼等も思うのだった。
 そして両チームのファン達もだ。それぞれ思うのであった。
「駄目球団の阪急も近鉄もな」
「こんだけ強うしてくれた」
「しかもファンのこともいつも考えてくれた」
「あんな素晴しい監督おらんで」
「そや、他にはおらんわ」
「西本さんが一番や」
 これまでの監督の中でだ。まさに第一の監督だというのだ。
「最高の監督やったわ」
「今日の試合、絶対に忘れへんで」
「この目に焼き付けたる」
「一生の思い出にするわ」
 彼等もこう誓うのだった。この日の試合は明らかにただの試合ではなかった。長嶋茂雄の選手、そして監督の引退の様な偽りのレセプションなどではないl。そこには確かなものがあった。
 その中でだ。仲根は試合前も黙々と練習していた。その仲根のところにだ。
 西本は来てだ。こう彼に告げたのだ。
「ジャンボ、調子ええみたいやな」
 彼の仇名を呼んでのことだった。
「スイングが生きてるわ。これやったらな」
「試合に出させてくれますか?」
「ああ、そうするで」
 笑顔でだ。仲根に告げた言葉だった。
「楽しみにしときや」
「はい、そやったら」
「御前のホームラン見せてもらうで」
 西本は優しい笑みで仲根に言った。
「今日な。楽しみにしてるからな」
「監督、見て下さい」
 その優しい笑みの西本にだ。仲根は切実な顔で返した。長身の彼は今も西本を見下ろしている。だが西本はその彼よりも遥かに大きく見えた。
「わし、間に合いますから」
「ずっとな。思ってたんや」
 西本はその切実な顔の仲根に言った。
「わしは近鉄にようさん置き土産をしたつもりや」
 それが羽田であり栗橋だ。彼が育てた選手達だ。
「けれどな。最後の置き土産はや」
 仲根を見上げその目を見ての言葉だった。
「御前や」
「わしですか」
「そうや。わしの近鉄への最後の置き土産は御前や」 
 他ならぬだ。彼だというのだ。
「その御前に。頑張ってもらうで」
「はい、任せて下さい」 
 やはりだ。切実な顔
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ