第三章
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第三章
このことを思い出してだ。仲根は呟くのだった。
「わし、このまま終わりたくないわ」
こう思い呟いたのだ。
「監督に見せたい、わしが打つところ」
何があっても自分を見捨てずに教えてくれる西本に。
「監督が近鉄におる間に」
こう強く思いながらバットを振っていた。西本の練習は厳しい。だが仲根はその練習の中で西本の熱さ、自分への愛情を感じていたのだ。
彼は黙々と練習していた。しかしだ。
相変わらず出場の機会はなかった。この年も。そしてだった。
シーズン終盤にだ。彼はこの話を聞いた。その話はというと。
「えっ、監督が!?」
「そや、今シーズンでユニフォーム脱ぐらしい」
「近鉄の監督辞めるらしいわ」
「そうするらしいわ」
「何でや、いやそやな」
仲根は最初その話を否定しようとした。しかしだ。
西本はもう還暦を迎えている。監督としてはかなりの高齢だ。しかもだ。
このシーズン近鉄は不調だった。清廉潔白な西本が不本意な成績に対して責任を取らない筈がない。彼の引退は少し考えてみれば当然のことだった。
このことは仲根にもわかった。それでだった。
彼は項垂れながらも納得した。西本の引退のことを。
だが彼はだ。こう思うのだった。
「最後の最後に」
何を思うかというと。
「監督に見せたい。わしが打つところ」
それを見せたいというのだ。
「どでかいホームラン、まだ一本も打ってへんけれど」
試合に出ていない。ならば打てる筈もなかった。
「そのホームラン監督に見せたい。絶対に」
こう心に誓うのだった。そしてだ。
西本自身の前にも来てだ。このことを言った。
「わし、ホームラン打ちます」
「打ってくれるんか?ホームラン」
西本は確かに厳しい。しかしだ。
厳しさだけで選手はついては来ない。誰もだ。心のない厳しさなぞ厳しさではないのだ。
彼の目には愛情があった。選手達への、チームへの、そして野球への。
その愛情のある目で仲根を見ていた。そしてこう言うのだった。
「そうしてくれるんやな」
「はい、監督に見せます」
仲根は切実な声で。その長身から西本に話す。
「わしのホームラン、絶対に」
「そうか。じゃあ楽しみにしとくで」
西本はその愛情に満ちた目で仲根を見上げながら応えた。
「御前のホームラン、調子がよかったらな」
「その時はですね」
「試合に出す。その時に打ってくれ」
「打ちます」
絶対にだと。仲根も言葉を返した。
「その時見ておいて下さい。間に合ってみせます」
「間に合ってかいな」
「わし、ずっと監督に教えてもらってました」
野球のことを、まさに全てをだ。
「けどわし芽が出てませんでした。けれど」
「芽を出すんやな」
「そのこと
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