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真・恋姫†無双~現代若人の歩み、佇み~
第三章:蒼天は黄巾を平らげること その6
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「老骨に朝から鞭を打つとは。お前、それでも儒教徒か?」

 その一声は季節の変わり目と、秋の到来を予感させる柔らかな風が吹き抜ける広宗の城壁にあたり、声を掛けられた青年、丁儀は黙したまま階段を上っていく。城外の遠く、青い地平線の方から聞こえてくる合戦の響きに表情を引き締めると、ぴしっと腰に手を当てて俯瞰する。人の前に立つには申し分ないほど堂々としており、その武勇も確かなものがあるのだが、不思議なことに彼はこれまで一度たりとも戦場に立とうとはしてこなかった。新参兵からは内心軽んじられてはいるが、古参兵らは一様に納得して彼を擁護している。丁儀はあくまで『しすたーず』の『ふぁん』であり、いわゆる親衛隊の隊長に属する人間で、決して兵士では無いのだ。
 てくてくと、漸く後ろから老人が追いついてきた。商売道具をたんと詰めた風呂敷を背負いながらぶつぶつと小声で不満を言い、膝をえいしょえいしょと上げて段を踏む。小言を言う割には大して表情を歪めておらず、またきつい運動をしているのに息を切らしていないこの占い師、管輅は階段を登りきると丁儀をじろりと見た。

「おい、聞いているのか。お前は信心を持ち合わせているのか」
「俺は太平道だ。お前の宗教と関係ない。というか昨日の占いで、早起きすべしと説いたのはあんただったろうが」
「若い者にはいつだって得だ。健康長寿の源だからな。しかし、わしのような老人まで巻き込む必要は無かろうに。御蔭で朝の市場に出向けなくなったではないか。この落とし前、どうつけてくれる?」
「それはこれから説明する。見ろ、官軍だ」

 丁儀の言葉に管輅は目を向けて、歳相応に衰えた視力を何とか働かせんとした。まだまだ季節は夏だ。燦々とした光が地面に跳ね返っているように見えて、蜃気楼が浮かんでいるかのようだ。だがよく見ればその中に、騒乱によるものであろうドドドと震える砂煙とひしめき合う多くの人影があった。その数は多くは多くは無いだろうが、優に数千は超えていると見て間違いないであろう。何せ黄巾党と官軍が衝突し合う様子であるのだから。
 「今日は空気が澄んでいる。遠くまでよく見渡せるぞ」という若人の言葉にむかつくものを感じる管輅ーーー彼の視力は老いてなお悪くはないが書物を見るのに苦労する事はあったーーーであった。立場の違いゆえに遠慮するものがあるのだろう、城壁を守護する一般兵は石のように近付いてこない。それをいいことに丁儀は続けた。

「ご苦労な事だ。何度やっても飽きないのが彼ららしい」
「お前の部下が戦っているのに、お前は行かないのか?」
「生憎、将軍としての素質はこれっぽっちも無い。戦術なんてものは、俺より頭が良い奴にやらせればいい」
「その残念な頭でよくも三姉妹を救出したいと言ったものだ。党の首脳部は呪術者としては落第だが、一軍の
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