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ふとした弾みで
第三章
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「それにアイルランド系も多いしね」
「そうだな、欧州はもうな」
「今はどうしようもないから」
 両親も彼の言葉に頷く。
「だったらな」
「もうよね」
「うん、そうしようか」
「アメリカへの移民は我が国の伝統だからな」
 父は苦笑いでこうも言った。
「だからいいだろう」
「あまりいい伝統じゃないね」
「暮らせていたら移民はしない」
 祖国でだ、愛する祖国を離れなければならない理由があるのだ。
「そのジャガイモ飢饉でもな」
「イギリスが一切助けなかったからだったね」
 ロナルドは忌々しげにその話に乗った。
「麦は普通に採れていたのに」
「そうだ」
 当時麦はイギリスから来ている地主達に年貢として収められていた、アイルランド人達は麦ではなくジャガイモを食べていたのだ、だがそのジャガイモに病気が流行りそれでアイルランド人達は主食を失ったのだ。
 しかしイギリス人達は麦を容赦なく取り立てた、しかも一切救済策を採らなかった。その為アイルランドでは百万の餓死者が出た。
 四百万の移民がアメリカに渡った、その結果今もアイルランドの人口は回復していない。そこまでのダメージを受けたのだ。
 このことについてだ、ロナルドも言うのだ。
「その時から、いやそれよりも前からあったから」
「だからそれもな」
「いいんだね」
「とにかく生きろ」
 これが父が息子に言うことだった。
「いいな」
「うん、じゃあね」
「移民でも何でもしてな」
「アメリカに行ってもいいんだね」
「英語も通じるしな」
 これは好都合だった、アメリカに移住するには。
「だからな」
「そうだね、じゃあアメリカの方も探してみるよ」
「三つも資格があったらいけるでしょ」
 母はアメリカなら、と言った。
「幾ら何でも」
「多分ね、じゃあね」
「ええ、行ってきなさい」
 こう話してそのうえでだった。
 ロナルドはアメリカの方もネットで検索をして仕事を探してみた。その結果。
 カルフォルニアの方にいい仕事があった、その仕事はというと。
「大学の助手だよ」
「おお、大学か」
「アメリカの方の」
「うん、アイルランド文学のね」
 それのだというのだ。
「助手なんだ」
「丁度いいな、アイルランド人だしな」
「あんた昔からアイルランド文学の本も読んでるし」
「うん、大学でもそれが専門だったしね」
 ロナルドもそうだと返す。
「それじゃあね」
「よし、じゃあ行って来い」
「カルフォルニアにね」
「アメリカの西の端の方だったね」
 ロナルドはまだアメリカのことをよく知らない、それでカルフォルニアについてもこうした認識だった。ましてやこの州がアメリカにおける人種差別のメッカであったという一面もまだ知らない。
「行ってみるか」

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