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ふとした弾みで
第二章
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「あの国にだけはね」
「そうだな、イギリスだけはな」
「論外よね」
「うん、あの国には行かないよ」
 アイルランドは十二世紀からイギリスに征服され第一次世界大戦まで統治されていた。その間様々なことがあった。
 特にだ、ロナルドはこのことを言わずにはいられなかった。しかも忌々しげに。
「ジャガイモ飢饉だってね」
「そうだ、そのことは忘れるな」
「いいわね」
「忘れる筈がないよ」
 二人は両親に言う。
「絶対にね」
「だったらいいな」
「イギリスだけはよ」
「うん、けれど本当に何とかならないかな」
 仕事、それはだった。
「何か一つでもね」
「仕事がないと生きられないからな」
「困ったわね」
 両親も困った顔だった、ロナルドはとにかく仕事を探していた。とりあえず働けるのなら何でもいいという感じだった。
 農業も水産業も調べてみた、ネットも使って。
 だが本当に見つからない、今のアイルランドでは。
 ハローワークに行ってもだ、こうハロワークの人に言われた。
「こちらも困ってるんですよ」
「仕事がなくてなんですか」
「欧州全体で」
 やはりだ、アイルランドどころではなくだった。
「ないんですよ」
「そうですか」
「貴方は教員資格と図書館の書士と博物館の学芸員のですね」
「三つの資格を持ってます」
「それで英語とアイルランド語を喋れますね」
「そうです」
 このこともだ、ロナルドははっきりと答えた。
「けれどなんですね」
「本当に何処にもないんですよ」
 仕事自体がだというのだ。
「肉体労働系も」
「欧州はそんなに酷いんですか」
「潰れそうですよ」
 冗談抜きでそうだというのだ。
「どうなるやら」
「北欧もですか」
「ええ、あそこはEUでも独特ですから」
 それでだというのだ。
「妙に閉鎖的で」
「それでなんですか」
「すいません、ですから」
 ハローワークでもだというのだ。
「こっちも困ってるんです」
「どうしましょう」
「こっちもそれを知りたいです」
 ハローワークの職員さんでもこう言う程だった、とにかく今彼は仕事がなかった。本当に何処に行っても何もなかった。
 それでいい加減困っていた、遂にはこう考えた。
「欧州を出ようかな」
「それで他の国でか」
「生きようかっていうのね」
「英語が通じる国は多いし」
 彼にとって幸いにだ、だからだというのだ。家で両親に話す。
「何処かに行こうか」
「何処に行くんだ、それじゃあ」
「何処にするの?」
「アメリカかな」
 まず挙げたのはこの国だった。
「あの国にしようか」
「あの国なら仕事があるからか」
「それでなのね」
「うん、景気は欧州よりずっとましだし」
 よくはないがそれでもだというのだ
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