暁 〜小説投稿サイト〜
函館百景
その1
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『きったぜ、きたぜ、はーこだーてへー』
 そんな歌を昔聴いたことがあると家族に打ち明けると、答えはこうだった。
「アラレちゃんとサブちゃんがごっちゃになってる」
 まあ、北島三郎のみならず、多くの人々にとって、函館は憧れの地なのだろう。
 僕は皆といるより、一人でいるほうが楽しめるタイプ。
 本来なら家族旅行になるはずだった北海道旅行を、無理を言って一人旅にしてもらった。
 親不孝極まりないが、そうでないと自身が楽しめず、道中不安定になりそうだったから仕方がない。
 元々情緒不安定になりやすい性格。短い休みの期間、危険因子をなるべく除いたほうが楽しめる。
そう思ったのである。

 当然、旅行の企画も自分一人で立てることになった。
 元町、函館山、五稜郭は完全征服。
 様々な情報誌を見て、そう思うようになっていった。この3つのスポットが、華のある場所だと、今でも思っている。特に函館山からの景色は、写真に撮る価値があろう。
 三脚を持って行ったほうがいいが。
 ホテルは安さに惹かれて、函館駅前の安いビジネスホテル(朝食つき)にした。
 見知らぬ景色を見て、写真を撮れれば、雑魚寝でも構わなかった。
 ところが旅行直前になって、元町と五稜郭が函館駅を挟んで反対側だと知り、少し狼狽した。予約をキャンセルすればキャンセル料を取られてしまう。
 結局そのホテルにした。

 ホテルを予約したあたりから、函館旅行をテーマに小説を書きたいと思うようになっていった。
 いつまでもライト・二次創作系の小説ばかりでは進歩がない。
夏目漱石の『倫敦塔』や、太宰治の『富嶽百景』を目標に、旅行をテーマにした硬派小説。
 書けたらどんな気分だろうか。
 函館までの道中は、刮目して車窓や景色を眺めたほうがいいと思うようになった。

 出発の日は涼しく、霧深かった。
 出発の日は、家族が駅まで送ってくれた。
 駅の構内に入ると、殺風景なプラットホームが目に入った。

 先の大地震で釣り天井が落下し、ボロボロになった写真を僕も見たことあるが、その面影が見られないほどに修復されている。
 釣り天井で或るところは変わっていないようだが。
 また地震があったら、ぐちゃぐちゃになりそうである。
 乗る新幹線は、車体にポケモンの絵を携えて待機していた。

 JRも洒落たことをする。
乗り心地は、研修のため東京に行った時と変わっていない。
 ふかふか感もあまり変わらないが、今回は新幹線が出発する直前、妙に息苦しくなったのを覚えている。
 ちょっとわからないが、家族を連れてこなかった罪悪感か、旅行が始まることによる『産みの苦しみ』か、
 いやいや、単に霧深かったせいか。
理由はよくわからないが、僕は妙な鬱を抱えつつ、街を出発した。

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