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エース
第二章
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第二章

「あと四ヶ月で。まだ右腕も動かせないのに」
「だから。焦ってはいけないんだ」
 医者の言葉は変わらない。慎重なままだった。
「焦っては何もかも駄目になってしまうよ」
「それはわかっています」
 答える。わかっていない筈がない。しかしなのだ。
「ですがそれでも」
「焦ってしまうんだね」
「はい」
 またしてもはっきりと述べるのだった。
「どうしても。右腕で投げたいです」
「気持ちはわかる。けれど今は」
「まだですか」
「確か君は普段は今になったらもうピッチングをはじめている頃だったかな」
「ええ、まあ」
 その通りだった。実は彼は普段は二月になると少しずつピッチングをはじめていく。寒さに気をつけてあまり投げないにしろだ。それでも投げていた。
「ですが今はとても」
「だから。焦っては駄目なんだよ」
 またそこを念押しする医者であった。
「何があってもね。そう」
「そう?」
「四月だな」
 彼は赤藤に言った。
「四月に少しずつ投げはじめればいい。少しずつな」
「少しずつですか」
「だから。焦らないことだよ」
 またしても念押しするのだった。
「何があっても。いいね」
「わかりました」
 憮然とした顔で頷く。焦りも不安もどうしても抑えられない。どうしても。だがそれでもトレーニングは続ける。投げたい気持ちを必死に抑えて走り続ける。下半身は鍛えられていく。
 この日もまた走っていた。それを見た女子高生達が色々と話していた。五人程いる」
「あれ赤藤じゃないの?」
「あっ、本当だ」
「最近ここで走ってるよね」
「確か怪我していたんだっけ」
「左手を?右手だったかしら」
 どうも彼のことはあまりよくは知らないらしい。それがわかる会話であった。赤藤も彼女達の話はただ聞いているだけで黙々と走っている。
「あれだけ走れるんだったら大丈夫じゃないの?」
「そうだよね、大丈夫だよ」
「今年中に復帰?」
 マスコミの話をそのまま鵜呑みにしたような会話である。
「あの人いるといないとチーム全然違うからね」
「そうそう、全然」
「だから早く復帰して欲しいわよね」
「もうすぐ二百勝だったっけ」
「ああ、それはまだ先みたいよ」
 何気ない会話を続けていく。赤藤はやはりただ話を聞いているだけだ。
「まだ三十にもなっていないし」
「あれっ、そんなに若いの」
「だってあの人高卒だし」
 変なことは知っている感じだった。
「一年目からガンガンやってるしね」
「ガンガンねえ」
「まあ確かに凄いピッチャーだしね」
 それは彼女達もわかっているようである。しかしそれでもやはり他人事として話しているのがわかる。そんな会話が赤藤の耳にただ入っていく。
「投げ続けて欲しいんだけれど」
「怪
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