焦がれる夏
参拾参 舞い上がるたま
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のう、そろそろ、一本欲しいのう)
東雲の目が光る。
真司が初球を大きく振りかぶった。
背筋を伸ばしてから、足を大きく回しこんで体を二塁方向に捻る。ややトルネード気味のモーションから、左手を高く掲げ、右腕を体に巻きつかせるようにテークバックして真っ向から投げ下ろす。
東雲はバットを横に倒した。
(セーフティ!)
是礼打線に当たりが止まってしばらく、そろそろセーフティバントをしかけてくるかと構えていたサードの敬太が猛然とダッシュ。
それと同時に、真司の右腕から放たれた白球がストライクゾーンへと突き刺さっていく。
キン!
「あっ!」
東雲は三塁側へとバントした。
真司の球速の反発力で、打球は死ぬ事なく弾かれ、前進してきたサード敬太の横を抜いた。
コロコロとショートの前へ転がる。
東雲は俊足を飛ばして一塁へ走る。
ショート青葉が前進してゴロをすくい上げ、走りながら一塁に投げた。
東雲が頭から土煙を上げて滑り込む。
「セーフ!」
「おォらァーー!」
一塁塁審の両手が横に広がり、東雲が絶叫しながらベースをバンバンと叩く。
内野安打。
サヨナラのランナーが、一塁。
「碇、ごめん…」
真司に謝った敬太は、その顔を見て息を呑んだ。頬が紅潮し、目が血走ってギラギラと輝き、荒い呼吸を繰り返していた。
「うん、大丈夫。次をしっかりとろう」
しかし真司は、悲壮な顔つきながら笑顔を見せる。敬太はその言葉に頷くほかはなかった。
<4番ファースト分田君>
サヨナラのランナーを一塁に置いて4番の分田。先ほどは初球を打ってセカンドフライに倒れている。今度こそ、の気合いが入っている。
(打てや分田。お前ならやれるけ。)
一塁ベース上から東雲が心の中でつぶやく。
バントしただけのはずなのに、右手は速球の衝撃でビリビリと痺れていた。
パァーーーーン!
「ストライク!」
例えランナーを背負っても、真司はそんな事関係なしに渾身の真っ直ぐを愚直に投げ込んだ。慎重さも、計算もない。ただ力一杯投げるだけ。初球を分田は見送った。
(こいつ、この場面でも俺に対して真っ向勝負かよ。何にも怖がってねえ。そんなにこの真っ直ぐに自信を持てるのは何故だ?)
二球目も真っ直ぐ。
分田は手を出すが、ファウルとなった。
0-2。真っ直ぐ二球でいとも簡単に追い込まれた。
(ここで力勝負か。力と力のぶつかり合い、まさかお前とこんな勝負をするとは思ってかったぞ、碇真司。)
真司の投球のテンポは早い。
サヨナラのランナーを背負った、慎重に投げるべきマウンドのはずなのに、勢いそのままにがむしゃらに投げ込んでくる。
(エースが渾身の力で投げ込んでくるなら…)
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